私はキャリアの大半を伝統的金融の分野で過ごしてきた。そこでは、市場がすでにどのように課題を解決しているかを研究し、その最適な解決策をさらに改善していく。デジタル資産はそれとは異なると感じられた。それは市場への賭けではなく、業界の真の成長がまだこれからであることを示していた。私の問いは、自身のバックグラウンドがどこで最も価値を提供できるかということだった。
銀行業務とエンジニアリングを組み合わせた私の経験から、導き出される答えは絞られた。デジタル資産を創出することは一つの課題だが、それを安全に保管することはまた別の課題である。金融の世界では常に、資本を得ることは難しく、それを維持することはさらに難しく、成長させることはさらに一層難しいとされてきた。デジタル資産において、維持とは「誰が鍵を管理するのか」という一つの問いに帰着する。だからこそ、私はカストディ(保管・管理)インフラを選んだのだ。
最初に市場に向き合ったとき、問いは単純に見えた。既存のどのソリューションが当社の要件に最も合うのか。しかし、どの選択肢にもトレードオフがあった。セキュリティを高めれば柔軟性が下がり、利便性を高めればプロセスの再構築が必要になり、管理を強めれば複雑性が増す。こうしたトレードオフは、合わせて別の問いを浮かび上がらせた。そもそもなぜ、顧客はセキュリティ、管理、柔軟性の間で選択を迫られなければならないのか。
その問いから、デジタル資産のインフラとサービスを提供する私のフィンテック・グループが誕生した。私たちはその構築に2年を費やし、約6カ月前に実稼働を開始した。その過程で、私はデジタル資産の領域をはるかに超えて適用できる3つの結論に達した。
1. システムが絶対にしてはならないことから始める
後から追加できない要件がある。それらは初日からアーキテクチャを形づくらなければならない。セキュリティはその最も明確な例である。
デジタル資産をコントロールするとは、その暗号鍵をコントロールすることを意味する。したがって、最初の問いは、単一の当事者が完全な鍵を保有し、それによってクライアントの資産に対する完全なコントロールを握るような状況を許すべきか否かであった。私たちは、そうすべきではないと判断した。鍵管理は、信頼実行環境(TEE)を備えた閾値マルチパーティ計算(MPC)に基づいて構築した。これにより、完全な鍵はどこにも存在せず、すべての操作に複数の当事者が必要となる。
2つ目の決定も同様に根本的なものだった。暗号技術は鍵を保護するが、組織内で取引の意思決定がどのようになされるか(誰が開始し、誰が承認し、どのような制限が適用されるか)については何も規定しない。いかなるテクノロジーも、単独でその答えを出すことはできない。そのため、このプラットフォームは「意思決定ルーティング」にも依存している。役割ベースのアクセス制御、承認ポリシー、支出制限、監査トレール(監査証跡)などが、後付けではなくアーキテクチャ自体に組み込まれているのだ。
これにより、複雑なシステムへの私の向き合い方は変わった。機能リストから始めるのではない。システムが絶対に侵してはならない条件の短いリストから始めるのである。
2. 自社で保有すべきテクノロジーを見極める
すべてのコンポーネントを自社内で構築できる企業はない。より難しい問いは、テクノロジーが「購入できるもの」から「自社で保有しなければならない専門知識」へと切り替わる境界線はどこか、ということだ。私たちにとって、その境界線は暗号技術だった。
システム全体のセキュリティが鍵管理に依存している以上、それを外部のブラックボックスとして扱うわけにはいかなかった。そのため、私たちは暗号技術の専門知識を内製化し、マルチパーティ計算の独自研究も行った。これは完成されたコンポーネントを購入するよりも時間がかかり、コストもかさむが、この2年間で、「自社構築か購入か」の決定はコストとスピードだけで判断すべきではないと確信するに至った。
企業が単に利用するだけのテクノロジーもあれば、深く理解しなければならないテクノロジーもある。そして、コア製品に極めて近いため、その専門知識を社内に留めておかなければならない少数のテクノロジーが存在する。その境界線はビジネスごとに異なる。それを早期に見出すことは、創業者にとって最も重要な任務の一つである。
3. 柔軟性とは、自らの誤った前提を生き延びる力である
このようなインフラには、単一の典型的なユーザーというものは存在しない。取引所は自社のネットワーク境界内へのオンプレミス展開を必要とし、ブローカーはハイブリッドモデルの方が適していることが多く、ファミリーオフィスや銀行は、個々のケースで異なる規制要件からスタートする。
単一のモデルを選択する方が容易だが、私たちはクライアントの環境内への完全な展開を含む、複数の展開モデルを想定して設計した。重要だったのは、最初の選択が決して後戻りできないものにならないようにすることであり、これにより、組織は規模や要件の進化に応じてモデルを変更できるようになる。
私はかつて、柔軟性とは主にクライアントにより多くの選択肢を提供することだと考えていた。しかし現在では、柔軟性とは、それが構築された前提の変化を乗り越えて生き残るテクノロジーの能力であると捉えている。クライアント、規制、市場はすべて変化し、創業者は必然的に予測を誤るからだ。これはインフラ製品において最も重要となる。なぜなら、テクノロジーが深く組み込まれるほど、その置き換えにかかるコストが高くなるからだ。その証明は予想よりも早く訪れた。ウォレット・インフラから財務管理に至る機能が、同一のアーキテクチャ上で自然に成長した。それは、単一のユースケースに特化して構築されたものではなかったからだ。
イノベーションに空白の市場は必要ない
このプロジェクトに着手する前、私はイノベーションとは主に、根本的に新しい何かを指すものだと考えていた。市場にはすでに強力な企業や実際に稼働している製品が存在していたため、最初は利用可能な最善の選択肢を選ぶことが賢明に思えた。しかし、セキュリティ、コントロール、利便性、柔軟性の間にある同様のトレードオフが繰り返し表面化した。トレードオフがあるからといって、製品が劣っているわけではない。すべてのアーキテクチャはその時代の制約を反映している。しかし、異なる方法で解決されるべきだと信じる課題をそれが阻み続けるのであれば、その問題は単なる「機能の欠落」よりも深いところにある。
この2年間の取り組みは、そこから始まった。誰もいない未開拓の市場ではなく、私が疑問を抱いた妥協の上に構築された成熟したソリューションからスタートしたのだ。この業界はまだサイクルの初期段階にあり、鍵の管理や意思決定のルーティングといった同じ原則は、カストディをはるかに超えて、トークン化された商品の発行などにも適用できる。
この取り組みの背景には、明確な野心がある。私は2027年までに会社をユニコーン企業の領域へと導くべく、チームを率いている。私はこれを予測ではなく目標として宣言している。口に出して表明したコミットメントは、心の中に留めておくよりも自らを律するものとなるからだ。
イノベーションが始まるのは、未開拓の市場ではなく、むしろ成熟した市場において、新しいテクノロジーや蓄積された経験によって、かつて固定されたものとして扱われていた限界を再検証することが可能になったときだと私は考えている。起業家の任務は、過去のものを否定することではなく、真の制約と、かつて誰かがそのようにシステムを構築したというだけの理由で存在する制約とを見分けることである。
ここで提供される情報は、投資、税務、金融に関する助言ではない。個別の状況に関する助言については、資格を有する専門家に相談すべきである。



