投資家は誰しも前提を置く。最も重要な前提は、往々にして自分でそれと気づかずに置いているものであり、経験を通じて形成される。時間の経過とともに、経済情勢、政府の政策、ビジネスのトレンド、市場の動向が、投資家の将来観を形作っていく。
今日の投資における前提の多くは、1980年代初頭以降に出現した、異例に恵まれた環境によって形成されてきた。すなわち、低位安定したインフレ、低下し続ける金利、拡大するグローバリゼーション、効率化を進めるサプライチェーン、そして傑出した米国株のパフォーマンスである。
それらの前提は、当時としては理にかなっていた。しかし、環境は変化する。問うべきは、過去の前提が妥当だったかどうかではない。今後数年にわたり現れる可能性のある投資環境に、それらが今もなお適合しているかどうかである。
安価な資本が当たり前になった
金利はおよそ40年にわたり、おおむね低下傾向をたどった。2007〜2008年の世界金融危機後には、きわめて低い水準にまで下がり、10年以上にわたってその水準にとどまった。
プライベート・エクイティから不動産に至るまで、多くの投資戦略が安価な資金調達と潤沢な流動性の恩恵を享受してきた。2022年以降、金利の上昇により資金調達コストが増加し、投資環境の一部は逆風に直面している。しかし、その影響は一様ではない。一部のセクターがバリュエーションの低下圧力や流動性の縮小に直面する一方、米国株は堅調な利益成長と人工知能(AI)をめぐる熱狂に支えられ、比較的底堅く推移している。
金利が最終的にどこで落ち着くかは、誰にもわからない。しかし、40年にわたる金利低下と10年以上に及ぶゼロ近傍の金利を経た今、その環境がいかに異例であり、投資家の期待にどれほど深く影響を及ぼしたかを、過小評価してしまいがちである。
得られる教訓は、金利上昇がすべての資産に等しく影響するというものではないだろう。むしろ、どのセクターが安価な資金調達に最も依存し、どのセクターが他の支援要因の恩恵を受けているのかを明らかにするものかもしれない。それらの支援要因が持続するかどうかは、企業がすでに高い期待水準を上回り続けられるかどうかにかかっていると言える。
低インフレは「普通」ではないかもしれない
数十年にわたり、投資家は比較的低位安定したインフレの世界で活動してきた。その安定性は、物価以外にも極めて大きな影響を及ぼした。金融政策の予測可能性を大幅に高めることにもつながったのである。
成長が減速したり市場が圧力にさらされたりした際、中央銀行はインフレが大きな制約になることを懸念せずに金利を引き下げる余地を持っていた。投資家は、この比較的シンプルな定石に慣れ親しむようになった。
しかし、さらに時代を遡ると、歴史はまた別の様相を示す。過去1世紀の大部分において、インフレは1980年代初頭以降と比べてはるかに変動が大きかった。その視点から見れば、多くの投資家が「普通」と見なすようになった低位安定のインフレ環境こそ、実は規則というよりも例外だった可能性がある。
グローバリゼーション、サプライチェーンの効率化、絶え間ないコスト削減が、数十年にわたりインフレを抑え込んできた。しかし、こうした要因の一部は今、逆回転し始めている可能性がある。多くの企業は、サプライチェーンの多様化、国内回帰(リショアリング)、そしてエネルギー安全保障への一層の注力を通じ、レジリエンスを重視するようになっている。
また、一部の経済学者は、債務負担の増加と持続的な財政赤字が、多くの投資家が想定する以上にインフレを誘発しやすい環境を生み出しかねないと指摘している。インフレは5年以上にわたり連邦準備制度理事会(FRB)の目標を上回っており、環境が変化しつつあることを示唆している可能性がある。
これらは恒常的な高インフレを示すものではない。しかし、近年数十年間に見られた異例なほど低位安定したインフレ環境が無期限に続くと想定することについては、投資家は慎重であるべきだと示唆しているかもしれない。インフレの変動リスクが高まれば、金融政策の予測可能性は低下し、市場、バリュエーション、ポートフォリオ構築に影響を及ぼす可能性がある。
テクノロジーが必ずしもリターンに結びつくとは限らない
投資家はしばしば、変革的なテクノロジーを見極めることと、優れた投資機会を見極めることを同一視してしまう。
ITバブル崩壊後の10年間は、有益な教訓を与えてくれる。インターネットの普及、電子商取引、コンピューティング能力が急拡大するなか、米国はインターネット革命の中心地であり続けた。それにもかかわらず、米国株はこの10年間でマイナスのリターンを記録し、2000年代の世界の主要株式市場の中で最もパフォーマンスの低い部類に入った。
多くの投資家が見誤ったのは、その未来を手に入れるために自らが支払っていた対価(株価)であった。
これと同じ構図が、今日でも重要になるかもしれない。人工知能(AI)は産業を再構築し、生産性を高め、莫大な経済価値を生み出す可能性がある。しかし、投資における問いは、現在の市場価格がその将来の成功のかなりの部分を既に織り込んでいないか、ということである。
歴史が示すように、あるテクノロジーの長期的な影響について投資家の見立てが正しかったとしても、市場価格に織り込まれた高い期待を上回るのが困難であれば、投資リターンは期待外れに終わることがある。
バリュエーションの重要性と、主役の交代
市場の主役(リーディングカンパニー)の交代は、多くの投資家が想定する以上にはるかに頻繁に起こることを、歴史は物語っている。
10年単位で振り返ると、市場で最大級の企業が次の10年でも最大級のままであることは稀である。競争、イノベーション、規制、そしてバリュエーション・サイクルが、歴史的に新たな勝者を生み出してきた。
今日のリーダー企業は、期待を継続的に上回ることでその地位を築いてきた。その結果、期待水準は極めて高いレベルにまで上昇している。将来のリターンは、これらの企業が引き続き好業績を上げるかどうかよりも、投資家が既に織り込んでいる期待をさらに上回れるかどうかにかかっている可能性がある。どれほど並外れた企業であっても、期待が過度に膨らみすぎれば、失望的なリターンをもたらすことがある。
今日の勝者が明日も勝者であり続けると想定することに対して、投資家は慎重であるべきだと、歴史は示唆している。
これこそが真のリスクである
これらの指摘は、いずれも予測を意図したものではない。ただ、今日の投資家が持つ多くの前提が、特定の経済・市場環境によって形作られたものであることを想起させるものにすぎない。
その環境は今後も継続するかもしれないし、意味のある形で変化していくかもしれない。
未来を予測しようとするよりも、投資家は定期的に自身のポートフォリオに組み込まれている前提を見直し、より幅広いシナリオにおいてポートフォリオがどのように推移するかを検討することに価値を見出せるだろう。
投資における成功は、次に何が起こるかを予測することよりも、過去の前提がかつてのような導きを与えてくれなくなったタイミングを認識できるかどうかにかかっていることが多い。



