自分を律すれば、結果として幸福になる……。私たちの多くはそう考えている。計画通りに進めれば、やがて自分の人生に満足感を覚えるようになる、という考え方だ。そのため、自制心が緩むとたいていの人は、自分にもっと厳しくしようとする。
例えば、朝に運動すると決めたとする。最初の1週間は順調にいく。その後、仕事でストレスが増し、睡眠時間が短くなり、目覚まし時計が鳴っても起きられない日が増えていく。開始から3週間後には「自分は自制心が弱い人間だ」と結論づける。ついには心地よく感じられるものを減らして自分をさらに追い込もうとする。
最近の研究によると、この順序は間違っている可能性がある。研究者が長期間にわたって人々を追跡調査したところ、前向きな気持ちになるのは自制心が向上する「後」ではなく「前」だった。これは自制の出発点として自身のウェルビーイング(心身の健康)を真剣に考えるという、ほとんどの人が自己改善とは考えない習慣だ。
従来の考え方の背景
この古い考え方が根強く残っている理由は容易に理解できる。規則正しく生活しているように見える人は自制心が効き、満たされているように見えることが多く、前者が後者を説明すると考えるのは自然なことだ。だが、満たされているからこそ、自分を律することが容易になっている可能性もある。外から見ればこの2つの説明は、全く同じに思える。
シンガポール国立大学の心理学者リレ・ジアらの研究チームは、それまでの研究の多くが相関関係に焦点を当てたものだったことに気づいた。つまり、両者が関連していることは示していたものの、どちらがもう一方を生み出しているのかまではわからなかった。また、因果関係が逆方向である可能性を疑う理由もあった。心理学者バーバラ・フレドリクソンの拡張形成理論では、ポジティブな感情が、時間の経過とともに心理的リソースを構築するのを助け、自制心はそうしたリソースを使っている可能性があると提唱している。
研究チームはこの成果を学術誌『Social Psychological and Personality Science』に発表した。最初の研究では、アジアで働く成人377人を1年間にわたって追跡調査し、6カ月ごとに状況を確認した。その都度、研究参加者は自分の意図をどの程度実行できたか、また自分の人生についてどの程度満足しているか報告した。
重要なのは、各人を他人と比較するのではなく、その人自身と比較したことだ。人と人を比較するのはランナーたちのレースタイムを比較するようなものだ。一番速いランナーは単に才能に恵まれているだけかもしれず、他人と比較しても、人が上達するには何が必要かということとは何ら関係ない。より適切な問いは、あるランナーが普段の日よりもよく眠れた翌日に、普段よりパフォーマンスが向上するかどうかだ。同様に研究者たちは、普段より前向きな気持ちになっている人が、その後に普段より優れた自制心を示すかどうかを調べた。



