グローバル展開は、成長企業にとって究極の承認のように感じられるかもしれない。海外の販売代理店から連絡が入る。大口の注文が舞い込む。計画すらしていなかった市場から、突如として需要が生まれる。これに対する自然な反応は、「イエス」と答えることだ。
だが、特にフィットネステックや消費者向け製品の分野で事業を海外展開し、拡大してきた私の経験から言えば、これは企業の成長において最も危険な瞬間の1つにもなり得る。
最大の過ちは、進出先の国を間違えることではない。海外からの需要があることと、自社にグローバル展開の準備が整っていることを混同してしまうことだ。
製品を扱う企業、特にハードウェア、ソフトウェア、そして継続的なカスタマーサポートを組み合わせた製品を提供する企業にとって、新たな国への進出が単なる「新たな販売機会」にとどまることは滅多にない。それは、ビジネスに新たなオペレーションの階層を追加することを意味する。
以下は、私が苦い経験から学んだ3つの教訓である。
1. 需要に拡大戦略を決めさせてはならない
ある時期、私たちは複数の市場にまたがる約30社の販売代理店と話をしていた。日本の販売代理店が当社製品の購入に関心を示してくれたが、そこには1つの条件があった。製品を日本語対応にする必要がある、というものだった。
それは簡単なことに思えた。買い手がいるのだから、翻訳しない手はないはずだ。
しかし、ローカライズが単なる翻訳で済むことはめったにない。製品の適合化、品質保証、顧客とのコミュニケーション、そして文化的背景への配慮が必要となる。最初は当然のチャンスに見えたものが、最終的には約2カ月におよぶプロセスとなり、結局その時点では日本語へのローカライズを完了することはできなかった。
そして、次の機会について考え始める。日本語、ロシア語、アラビア語、その他の言語。すると突然、ビジネスを拡大するどころか、その複雑さを何倍にも増殖させている状態になる。
私たちは、はるかに選択的になることを学んだ。関心を示すあらゆる市場を支援しようとするのではなく、大きな可能性が見込める1つか2つの市場を選び、インフラを適切に構築するのだ。他の言語や国を追加する前に、その市場でモデルが機能することを証明する。
海外展開においては、リーチを広げることよりも、集中することのほうが大きな成長を生む場合がある。
2. サポート体制が整って初めて、販売は成功したと言える
もう1つの教訓は、ロシア向けに相当量の出荷を行ったときに得られた。大口の注文を獲得したことは成功のように感じられた。しかし、私たちが見誤っていたのは、製品が現地に到着した後に何が起こるかということだった。
必要とされるサービスやサポートのレベルは想定以上で、私たちのチームはパンク状態に陥った。私たちは製品を販売するためのインフラは構築していたが、他国でその規模のサポートを効果的に行うためのインフラは必ずしも整っていなかったのだ。
この違いは、物理的な製品にテクノロジーと継続的なサービスを組み合わせている企業にとって、特に重要である。
提供する製品に機器、テクノロジー、顧客体験が含まれる場合、出荷品が倉庫を出た時点で関係が終わるわけではない。顧客はオンボーディング、トラブルシューティング、交換部品、ソフトウェアの支援、そして継続的なコミュニケーションを必要とする可能性がある。
海外からの大口注文を喜ぶ前に、創業者は別の問いを投げかけるべきだ。「もしこの顧客が明日、予想を大幅に上回る追加注文をしてきた場合、私たちは自社のブランドが約束する顧客体験を変わらず提供できるだろうか」
海外で販売する能力は、海外で顧客を支える能力よりもはるかに速く成長し得る。この2つの能力は、ともに拡大させる必要がある。
3. 企業の評判は自動的に国境を越えない
ある市場ではよく知られている企業が、別の市場では実質的に全くの無名であるということは起こり得る。
新たな地域に進出する際、創業者は製品の品質やこれまでの成功実績だけで需要を生み出せると考えがちだ。しかし、新しい市場の消費者はあなたの企業について聞いたこともないかもしれず、自国の顧客とは異なる購買行動をとる可能性もある。
また、信頼の源泉も国によって異なる。ある国ではメディアでの報道が重視されるかもしれない。別の国では、現地の業界専門家やインフルエンサー、あるいは販売代理店のほうがはるかに強い影響力を持つこともある。購買習慣、新しいテクノロジーに対する懐疑心、サービスに対する期待値など、すべてが異なる場合があるのだ。
つまり、海外進出には現地での信頼関係をゼロから構築し直すことが求められる。販売代理店、ジャーナリスト、業界のキーパーソン、関連するクリエイターなど、その市場を理解している人々と協力することだ。彼らは、製品のプロモーション方法だけでなく、そもそもその市場の人々が自社製品のようなアイテムをどのように評価するのかを理解する手助けをしてくれる。
目標は、マーケティングを単に翻訳することではない。信頼を「翻訳」することなのだ。
パートナーとの関係性を過小評価してはならない
海外展開から学んだ教訓がもう1つある。これはテクノロジーとはあまり関係がない。ビジネス上の関係が最終的にどこに行き着くかは、めったに予測できないということだ。
これまでの歩みの中で、ある地域で苦戦していた製品が、別の地域で予期せぬ機会に恵まれるのを私は見てきた。また、販売代理店との関係が、当初想定していた取引をはるかに超えて発展していくのも目の当たりにしてきた。その経験が、海外のパートナーに対する私の考え方を変えた。
最大の市場や、最も大きな注文をくれる販売代理店を優先しがちだ。しかし、その関係の先に何が待ち受けているかは分からない。資本、人脈、戦略的機会、あるいは将来のパートナーシップかもしれない。だからこそ、真剣に向き合ってくれるすべての販売代理店やパートナーを、最大の顧客と同じように敬意を持って接するよう努めるべきだ。
海外展開の本質は、できるだけ多くの国に製品を送り出すことではない。進出するそれぞれの市場で成功するための能力を構築することなのだ。
需要は心躍るものだ。しかし、需要だけで準備が整ったことにはならない。
国際的に事業を拡大させる企業とは、必ずしも最も多くの市場に対して「イエス」と言う企業ではない。どの市場に対してなら本当に準備が整っているかを知っており、それ以外の市場については適切な時を待つ規律を備えている企業なのだ。



