たった1人で評価額10億ドル(約1580億円)、あるいはそれに近い企業を立ち上げることは可能なのだろうか。ソロプレナー(個人起業家)という観点からはまだ遠いかもしれないが、小規模なチームが極めて高い評価額を築き上げるという意味では、その現実に近づきつつある。
「1人による10億ドル(約1580億円)企業」というコンセプトは、ティム・コルティノヴィスが著書『Single-Handed Unicorn: How to Solo Build a Billion-Dollar Company』で初めて提唱したものだ。彼はその中で、AIエージェントやAIツール、フリーランサーを活用することで、そのようなソロプレナー企業をスケールさせることができると述べている。
この構想は「十分に現実的だ」と、Optimizelyの最高製品責任者であるルパリ・ジェインは語った。特に、多くの企業における従業員数と売上高の比率を見るとそうだという。ニューヨークで最近開かれた同社のカンファレンスで、ジェイン氏は筆者にこう述べた。「企業価値で平均し、人数を見れば、彼らはすでにそれを実現しているのではないか」
たとえばTelegramは、(請負業者を除く)30人規模の企業でありながら、現在の評価額は300億ドル(約4兆7400億円)で、従業員1人あたり10億ドル(約1580億円)に相当する。Anthropicは従業員約5000人で1兆ドル(約158兆円)企業、つまり従業員1人あたり約2億ドル(約316億円)である。OpenAIは従業員約7000人、評価額8500億ドル(約134兆円)で、従業員1人あたり1億2100万ドル(約191億円)に相当する。
「1人の人間がそれを成し遂げられると考えるのは難しくない。一方で、3人で30億ドル(約4740億円)規模のビジネスは存在し得るし、私たちはそうした事例にかなり近づいている」とジェイン氏は述べた。「評価額を見ればわかる」
人工知能とデジタル技術が、こうした拡張性を現実のものにしている。「本当に興味深いのは、AIが労働力の代替としてではなく、物事を進めるための小さな軍団、あるいは小さなチームを私たちに与えたことだと思う。それによって、10億ドル(約1580億円)規模のビジネスはより扱いやすいものになる」
「5年前に『これは実現可能か』と聞かれていたら、私は『そうでもない。これだけの営業担当者が必要で、これだけのアウトリーチが必要だからだ』と答えていただろう。だが今は、大企業向けの営業担当である必要はない」
とはいえ、この構想には健全な懐疑論もある。「この『1人ユニコーン』という話が、たいていホッケースティック型の成長グラフのスライドと一緒にフィードに流れてくるのを何度も見ている。そしてそのたびに私は思う。理論上はそうだろう、と」と、The Field CTOのCEO兼創業者であるアンディ・トゥライは述べた。
理論上は成り立つ、とトゥライ氏は続けた。「運用上の面倒な作業の十分な部分をエージェントに任せられるなら、相応の売上に到達するために40人を給与台帳に載せておく必要は本当になくなる。福利厚生を管理する必要も、オフィスを借りる必要もない。デスクチェアをめぐって言い争う人もいない」
トゥライ氏の知人のある創業者は、エージェントだけで運営する事業の採算を試算し、「利益率が99%近くになった」とトゥライ氏は述べた。「机上では、そうすることでベンチャーキャピタルから資金を得ている競合の顧客の一部を、より安い価格だけで奪いに行ける。相手はいまだに2週間ごとに30人分の給与を払わなければならないが、こちらはそうではないからだ」
しかし、落とし穴もある。「すべては自分が所有していないインフラの上に成り立っている」とトゥライ氏は言う。「ベースにしているモデルの利用制限(レートリミット)が変更されたり、いつの間にか依存していたクラウドの料金プランが改定されたりすれば、このビジネスの基盤は一瞬にして揺らぐ。これは市場リスクというよりも、他人の土地に家を建てて、地主が再交渉を言い出してこないことを祈るようなものだ」
さらに、午前3時にかかってくるセキュリティ侵害の電話もある。「『私1人だけです』という回答では、法務部門の審査を通過して契約を結ぶことはできない」とトゥライ氏は言う。「ある創業者が、製品の質ではなく、単に彼の後ろに控えるサポートチームが存在しないという理由だけで、6桁(数十万ドル)規模の契約を逃すのを私は目の当たりにした」
こうした企業には別のリスクもある。「自分1人しかいないとき、部屋の中に『これは間違っていると思う』と言ってくれる人は誰もいない」とトゥライ氏は指摘する。「エージェントは指示された通りに実行するだけで、計画に穴があることを指摘してはくれない。それが6カ月後に響いてくるか、あるいは2年後かはわからないが、最終的には必ずしっぺ返しを食らうことになるだろう」



