効果的なコミュニケーションスキルは、多くの求人情報において必須要件として挙げられている。これにはもっともな理由がある。ハリス・ポール(The Harris Poll)が実施した調査によると、従業員は週の労働時間の最大88%をコミュニケーションに費やしているという。調査対象となった1002人のナレッジワーカーと253人のビジネスリーダーのうち、100%が毎週のように意思疎通のすれ違いを経験していると回答した。コミュニケーション不足は、生産性の低下やストレスの増加、デッドライン(納期)の遅れを招く原因となる。
自分の真意を言葉にしなかったり、口にした言葉に本心が伴っていなかったりすると、つながり、協働し、革新し、変革を起こす機会を失ってしまう。チームのコミュニケーションスキルを向上させるためには、私たち自身が誠実で信頼される存在になるよう努め、他のメンバーにも同じような機会を提供していかなければならない。
コミュニケーションスキルを向上させるための能力開発プログラムとして、企業向けの「ストーリーテリング研修」や「ストーリーテリング・コーチング」を聞いたことがあるかもしれない。では、それらと「ストーリー・ファシリテーション」は何が違うのだろうか。
ストーリー・ファシリテーションの定義
ストーリー・ファシリテーションは、コミュニケーションスキルの構築という概念を根底から覆す。筆者は、ストーリー・ファシリテーションを「他者を導き、力を与え、その話に耳を傾けることで、彼ら自身が自らの有意義な体験を見いだし、共有できるようにする実践」と定義している。自分のストーリーを語ることに主眼を置くのではなく、サポート役に徹するホストとなり、相手が「自分の話を聞いてもらえている」と感じ、信頼関係を築き、自分でも気づいていなかったストーリーを引き出せる環境をつくり出すのだ。
しかし、ストーリー・ファシリテーションは、人々が自分のストーリーを語るのを助けるだけにとどまらない。誰もが可能だと思っていなかったアイデアや知識、機会を明らかにする力もある。ストーリー・ファシリテーションがリーダーに求めるのは、すでに知っていることをより効果的に伝えることではない。自分が「知らないこと」に対して好奇心を持ち、それを発見するプロセスに他者を巻き込むことなのだ。
これは直感に反するように思えるかもしれない。多くのリーダーは、自ら答えを持ち、進むべき方向性を示し、周囲を説得して従わせることが自分の役目だと考えているからだ。しかし、ストーリー・ファシリテーションがリーダーに求めるものは異なる。それは、自分が知らないことを認める強さ、本当に答えの分からない質問を投げかける好奇心、そして他者のストーリーが助けになると信じる信頼感だ。リーダーシップには、時に「舞台の上の賢者」として振る舞うことが求められることもある。しかし、ストーリー・ファシリテーションは、時には「傍らに寄り添うガイド」になる方が効果的であると気づかせてくれる。
なぜストーリー・ファシリテーションが必要なのか
筆者の近著『Winning Without Persuading(説得せずに勝ち取る)』から、ストーリー・ファシリテーションがもたらす効果の実例を紹介しよう。
ゲイラが、地方学区における教育プログラムへの助成金を申請した際、一度は却下された。そこで彼女は、助成団体を率いるジェイクとの面談を申し入れた。申請書にはストーリーを語る余地がなかったため、彼女は自分でその機会を作ったのだ。ゲイラは嘆願したり、申請書に書かれた事実を繰り返したりする代わりに、あるストーリーを語った。それは、ジミー・カーター元大統領が、衰退しつつあった町と日本の姉妹都市との間にいかにして永続的な絆を築いたか、そしてパスポートを持ったこともない家庭の生徒たちが、広島などを訪れることでいかに変えられたか、という話だった。ジェイクは、申請書から受けたプログラムの第一印象が、その全貌を捉えていなかったことに驚いた。彼は質問を始め、最終的に、このプログラムには助成金を支給「しないわけにはいかない」と判断したのだ。
ゲイラとジェイクがストーリーを語る場を作ったことで、カーター元大統領のレガシー事業の一つが救われ、地方の学生たちは、今もこの異文化交流プログラムを通じて学び、成長し続けている。
しかし、これほど差し迫った状況になるまで、ストーリーを語る場を設けるのを待つ必要はない。日頃からストーリー・ファシリテーションを実践していれば、危機が訪れる前に、効果的なコミュニケーションをとることができる。
ストーリー・ファシリテーションをリーダーシップに活かす方法
ファシリテーションとは、タイムキープやアジェンダの管理ではない。あらかじめ用意された答えを押しつけてその場を支配することでも決してない。むしろ、チームミーティングにおける冗長で非生産的な会話を最小限に抑え、それらを意味のある生産的なつながりへと変える方法を知ることだ。ストーリー・ファシリテーターとして成功するためには、3つの重要なマインドセットを実践する必要がある。
1. 「他者中心」であること
極めて優秀なコミュニケーターは、必ずしもおしゃべりである必要はない。彼らは奉仕の精神を根底に持っている。喜んで主役の座を譲り、自分が学ぶべき点があることを素直に認めることができる。
実践における具体例:エネルギー分野でシニアリーダーを務めるユージン・トーは、自身のメンターとしての手法を「アドバイスを与えるのではなく、リーダーシップの葛藤を引き出すこと」と表現している。彼は若手リーダーたちを難しい選択の局面に立たせるようなストーリーを共有し、自分自身の答えを示すことなく「君ならどうするか」と問いかける。メンティ(指導を受ける側)に対して「優れたリーダーシップとは何か」を教え込むのではなく、相反する価値観の間で葛藤させ、自分自身のリーダーシップの指針を見いださせているのだ。
2. 「不確実性」を受け入れること
優れたストーリー・ファシリテーターは、あえて不確実性を追い求め、「分からないこと」をスタート地点であり、プロセスの過程であり、最終的なゴールとして受け入れることさえ厭わない。
実践における具体例:企業トレーナーのレジー・ポークは、研修の中に意図的に不確実性を組み込んでいる。ある演習では、受講者は複雑な問題を抱えた、台本のない顧客対応のシナリオに放り込まれる。あらかじめ決められた正しい対応から始めるのではなく、質問を投げかけ、顧客が本当に求めていることを見極めてから、対応を決定しなければならない。その目的は、まだすべての情報が揃っていない状況でのコミュニケーションを練習し、前進するために必要な情報を見つけ出す方法を学ぶことにある。
3. 独善的にならず、「実用的」であること
優れたファシリテーターは、特定の価値観や、知識の得方、仕事の進め方に対して、健全な距離を保っている。
実践における具体例:「Boys & Girls Clubs of Metro Denver」のCEOを務めるエリン・ポーテウスは、長年のリーダー経験が時に裏目に出ることがあると気づいた。誰かがアイデアを提案したとき、彼女は本能的に「それは以前にも見たことがある。そのやり方でやったことがある」と思ってしまうことがあったのだ。そこで彼女は、それまでとは異なる対応を実践し始めた。口数を減らし、より多くの質問を投げかけ、自分がすでに知っていることに基づいて「そのアイデアがうまくいくかどうか」を即座に判断したいという衝動を抑えるようにした。彼女の言葉を借りれば、好奇心と熟考のために「私は答えを知っている」というスイッチをオフにすることを学んだのだ。
ユージンは、メンティが自らの道徳的価値観を発見できるよう、あえて答えを言わない。レジーは、受講者が必要な情報を自ら発見できるように不確実性を活用する。エリンは自らの分野の専門家でありながら、可能性を性急に閉ざしてしまわないよう、好奇心を持ち続けている。
共通しているのは、好奇心だけではない。リーダー自身の知識が会話を導くべきタイミングと、その知識が発見の妨げになり得るタイミングを見極めている点だ。この区別は非常に重要だ。ストーリー・ファシリテーションは、リーダーに受け身になることを求めているわけではない。むしろその逆で、リーダーにもう1つの導き方を与えるものなのである。
ストーリー・ファシリテーションの力
非営利農場であるギャザリング・グラウンド(Gathering Ground)が、ファシリテーションの持つ力を完璧に物語るストーリーを共有してくれた。
農場で余ったトマトをフードバンクに引き取ってもらえなくなったとき、マネージャーはこの課題を農場のスタッフたちに共有した。「トマトが余っているけれど、買い手がいない。どうしたらいいだろう?」
その自由な対話の場から、誰も予想しなかったアイデアが生まれた。地域の人々にピクニック用具を持参してもらい、農場がパスタとソースを提供して、農場内でスパゲッティ・ディナーを開催するというものだった。最初の週には70人が集まり、翌週には100人が集まった。農場のスタッフたちは、損失になりかねなかった事態を新たな収益源に変え、地域コミュニティを構築する機会へと転換した。そして何よりの収穫は、農場で働く全員がこの成果を非常に誇らしく感じたことだった。
これこそがファシリテーションの力だ。チームは安心して自由にブレインストーミングを行える環境にいた。あるインターンが「祖母のスパゲッティソースのレシピ」について口にした瞬間、アイデアが形になった。そしてグループ全員で計画を作り上げた。マネージャー自身は、正しい答えを持っている必要はなかった。彼に必要だったのは、チームが話し合い、夢を描き、自分たちの可能性を発見できるような「場」を提供することだけだったのだ。
リーダーに必要なコミュニケーションスキルとしてのストーリー・ファシリテーション
これらのストーリーが示しているのは、効果的なコミュニケーションとは、常に完璧なピッチを行ったり、完璧なストーリーを語ったり、正しい答えを持っていたりすることではないということだ。多くの場合、他者の視点や経験を引き出す方法を知っていることこそが、はるかに優れた成果につながる。
これこそが、ストーリー・ファシリテーション、そして卓越したコミュニケーションの核心にあるスキルだ。自らの知識で先導すべきタイミングと、他者のストーリーや視点、洞察、アイデアを受け入れる場を作り、次の展開を変化させるべきタイミングを見極めることなのだ。



