がん治療薬の開発は、医療の中でも特に時間と費用がかかる取り組みだ。学術誌『Cancers』が2026年9月に掲載したレビューによると、人を対象とする試験まで進んだがん治療薬候補のうち、最終的に承認されるのは約4%にすぎない。しかも、1薬当たり約14年をかけ、12億ドル(約1895億円)超を投じても、この承認率にとどまる。
2026年までに得られた研究結果は、人工知能(AI)が、がん治療薬の候補を見つけ、試験し、患者に届ける方法を変え始めていることを示す。ただし、AIでがん全体を治せる単一の「治療法」が目前にあるわけではない。超知能AIなら実現できると考える人もいるかもしれないが、がんは1つの病気ではなく、異なる遺伝子変異によって起きる200種類を超える病気の総称だからだ。
データが示すのは、もっと段階的な進歩である。これまで薬で狙うのが難しいと考えられていた標的に作用する薬や、特定の患者群でより高い効果を示す治療が登場している。がんをより早期に発見したり、患者登録を1年早めたりする臨床試験もある。以下では、AIががん治療を速めている7つの方法を見る。
(1)AIで薬の標的となるタンパク質の立体構造を予測する
がんを引き起こすタンパク質の多くは、薬を結合させにくい立体構造を持つ。AIを使えば、タンパク質の3次元構造を予測し、薬の候補となる分子がどの位置にどう結合するかをシミュレーションできる。グーグル・ディープマインドのAlphaFoldに関する研究で、デミス・ハサビスとジョン・ジャンパーは2024年ノーベル化学賞の共同受賞者となった。
投資家も、こうした技術に巨額の資金を投じている。アルファベット発のAI創薬会社アイソモーフィック・ラボは2026年5月、21億ドル(約3316億円)を調達した。AI創薬では過去最大級の資金調達で、同社は2026年末までに人を対象とする試験の開始を目指している。
(2)AIを使った薬候補は第1相試験で高い通過率を示す
ボストン コンサルティング グループ(BCG)の研究者が2024年に発表した分析は、AIを活用して開発され、第1相試験を終えた薬候補約24種類を調べた。第1相試験は、少人数を対象に薬の安全性を確かめる試験だ。対象数は少ないものの、AIを使った薬候補が第1相を通過した割合は80~90%で、過去平均の約40~65%を上回った。
患者に実際の効果があるかを確かめる第2相試験では、成功した割合は約40%で、他の薬とほぼ変わらなかった。サンタクララ大学リービー経営大学院で経営学・起業論を担当するマイケル・サントロ教授は2026年7月、ProMarketへの寄稿で、AIが自動化したのは創薬工程のうち比較的安価な部分だと論じた。費用のかかる工程には、まだ手を付けられていないという見方だ。
2026年9月時点で、AIを使って設計された薬は1つも承認されていない。第3相試験まで進んだのは、インシリコ・メディシンのレントセルチブだけだ。対象疾患は肺線維症で、がんではない。



