起業家

2026.09.20 19:11

AIが起業の「困難」を消していく。私たちが失いつつあるもの

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私はこの30年で6社を起業してきた。どの会社を始める前にも、共通するものが1つあった。自分が何に足を踏み入れようとしているのかわからないという恐怖から、いつも胃のあたりに重い感覚を覚えたのである。

一度か二度経験すれば、その恐怖は薄れると思うかもしれない。だが、そうはならなかった。

もちろん失敗への恐れも一因だった。しかしそれ以上に、もっと根源的なものだった。会社を始めるということは、対処法もまったくわからない数々の困難に自ら身を投じることを意味し、しかもそれだけの努力や粘り強さが報われる保証はどこにもなかったのだ。

会社ごとに、まったく異なる問題があった。複数のスタートアップと長年の経験を重ねるうちに、私は「本当にこれを解決できるのか」と問いかけてくる内なる声を鎮める方法を見つけていった。

成功が保証されていないことはわかっていたが、リスクへの耐性は確実に身につき、いずれ訪れるとわかっていた不確実性をより受け入れられるようになった。振り返れば、その恐怖や苦闘は弱さではなく、むしろ創業者としての私自身の成長の一部だったのかもしれない。

新世代の起業家

いま、新しい世代の起業家が台頭している。

この3年足らずで、AIは会社を始める際に伴う多くの障壁や未知の要素を取り除いた。起業はほぼ民主化されたといえる。最近のHarvard Business Reviewの記事は、AIがますます「実行をコモディティ化」しつつあり、技術的な専門知識がほとんどない人でも機能するプロダクトを構築できるようにし、1人での創業をより現実的で容易なものにしていると述べている。

これは良いことだ。AIの成長ペースは気後れするほど速いが、それによって可能になったことは称賛すべきである。今日の起業家は、より速く、より低コストでスタートアップを立ち上げることができ、はるかに少ない人員、少ない障壁、そして大幅に少ない資本で、驚くほど堅実な初期版に到達できる。

今日の創業者は、30年前はもちろん、5年前でさえ想像できなかった能力を手にしている。

AIがすべてを解決すべきではない理由

だが、ここからが興味深いところだ。

事業を始めることがこれほど容易になり、通常の運営上の障壁の大半が消えたとき、何が起きるのだろうか。

私の30年にわたる起業家としてのキャリアの大半において、摩擦はただ取り除きたいものだった。十分な資金をどう調達するのか。誰を採用すべきか。これをどうやってつくるのか。そして物事が避けがたくうまくいかなくなったとき、どうやって修正するのか。

もし30年前に現在のAIツールを与えられていたら、私はそのすべてを喜んで受け入れていただろう。

しかし今、振り返ってみると、その摩擦の一部には別の役割があったのではないかと思い始めている。

ある種の摩擦は、単に私たちの歩みを遅らせただけだった。だが別の摩擦は、私たちに持っていなかったスキルを身につけることを強いた。限られた資本は創意工夫を促した。問題の解き方がわからないことは創造性を促した。拒絶は、売り込む力を高めることを強いた。失敗は適応を強いた。そして不確実性は、自分が正しいかどうかわからないまま意思決定することを強いた。

不要な摩擦と、私が「生産的な摩擦」と呼ぶもの、つまり実際に成長を助ける摩擦との間には違いがあるのかもしれない。

AIが生産的な摩擦を取り除き続けるなら、問うべき価値のある疑問がある。私たちは単に会社をつくりやすくしているだけなのか、それとも最終的に起業家のDNAを形づくる経験までも失っているのか。

このトレードオフに注意を払う価値があることを示す初期の兆候はすでにある。Microsoftとカーネギーメロン大学の研究者は、319人のナレッジワーカーと、彼らが生成AIをどのように使ったかに関する936件の実例を調査した。その結果、AIへの信頼が高いほど批判的思考が少なくなる一方、自分自身の能力への信頼が高いほど批判的思考が多くなることがわかった。

この発見は当然のことのように聞こえるかもしれないが、いくら強調してもしすぎることはないと思う。批判的思考は、起業家であることの極めて重要な要素である。仕事の大部分は、明確な答えのない問題を解くことであり、たいていは限られた情報しかなく、しばしば重要なものがかかっている状況で行われる。

そこで、先ほど触れた恐怖に話が戻る。

私を起業家として形づくった「恐怖の遺伝子」は、いまも鍛えられているのだろうかと考えることがある。だが、その問いは公平ではないのかもしれない。今日の創業者が粘り強さに欠けるとか、難しい課題に取り組む意欲が低いとは思わない。違うのは、彼らが働いている環境である。

私が何かのやり方を知らなかったとき、多くの場合、それを理解するまで格闘する以外に選択肢はなかった。うまくいくこともあった。間違えることも多かった。だが、そのプロセスを何度も経験することで、自信、判断力、粘り強さが培われた。

いまやAIは、創業者がはるかに速く答えを見つける手助けをしてくれる。それは大きな利点だ。だが、答えへのアクセスが速くなることが、自力で物事を理解していく経験を完全に置き換えるべきではない。

なぜなら、粘り強さはプロンプトで得られるものではないからだ。確信も、判断力も、何かを間違え、立ち上がり、最終的に理解することで得られる自信も同じである。

解決策は、起業を再び難しくすることではない。どの難しさを残す価値があるのかを見極めることである。

AIが創業者に教えられないこと

では、これは今日の創業者にとって何を意味するのか。

答えはAIの利用を減らすことではないと思う。私自身、毎日AIを使っているし、起業家はより速く進み、より身軽に運営し、本当に重要なことに集中するために、利用できるあらゆるツールを活用すべきだと考えている。

AIはすでに、コードを書き、市場を分析し、プロトタイプをつくり、ピッチを見直す手助けができる。そしてその能力は今後さらに向上する。物事がうまくいかなくなったとき、最も粘り強い創業者がどう振る舞うかを教えることさえ、おそらくできるだろう。

だが、粘り強さを教えることはできない。

最大顧客から離れると告げられたときにどんな感覚になるのか、資金が尽きかける中でどうやって給与を支払うかを考えているときに何を感じるのかを、AIは示せない。AIは難しい意思決定について考える手助けはできるが、あなたの代わりに決断することはできない。特に、その決断が大切に思っている誰かを解雇することだったり、周囲の誰もがあなたは間違っていると考える中で何かを信じ続けることだったりする場合はなおさらである。

そうした経験は、自分で生き抜かなければならない。だからこそ私は、創業者はこれらのツールをどう使うかについて意図的であるべきだと考えている。AIは難しい営業会議の準備を助けてくれるが、それでもあなたはその場に入り、「ノー」を聞かなければならない。何千もの顧客フィードバックを分析できるが、それが実際に顧客と話すことの代わりになるべきではない。そして難しい問題に対して筋の通った答えを提示できるとしても、答えを得ることと、それが正しい答えかどうかを見極める判断力を養うことの間には大きな違いがある。

私がこう述べているのは、AIが今日より悪くなることは決してないからだ。これらのツールは今後も向上し続け、創業者は自然と、より多くのことを任せるようになるだろう。私の懸念は、その過程で、不要な摩擦と生産的な摩擦の境界が見えにくくなることだ。私たちは仕事だけでなく、歴史的に起業家が判断力、粘り強さ、自信を培う助けとなってきた批判的思考や経験の一部までも、ますます外部化してしまうかもしれない。

AIが進化するほど、重要な教訓を教えてくれるプロセスを経ずに答えへたどり着くことは容易になる。

私たちが探るべきバランスは、おそらくこういうものだ。AIを使って経験を加速させるのであって、経験を置き換えるのではない。

AIには反復的な作業を取り除かせ、より良い答えにより速くたどり着く手助けをさせればよい。だが、不快な会話、難しい決断、自分自身で考えることを強いる問題を避けるために使ってはならない。それらはしばしば、粘り強さ、判断力、確信を育てる経験であり、私がすべての起業家に必要だと思う傷跡の一部でもある。

こうしたツールが進化する中で、創業者は自分自身に単純な問いを投げかけるべきだ。私は仕事をなくしているのか、それとも学びをなくしているのか。

それでも創業者は重要である

私のキャリアの大半において、起業を少しでも楽にできるなら、ほとんど何でもしただろう。いま振り返ると、私が取り除きたいと思っていたものの一部こそが、最も多くを教えてくれたのだと気づき始めている。

眠れない夜も、失敗も、胃のあたりに重く沈む感覚も好きではない。そしてもちろん、今日の創業者に対して、ただそのためだけに物事を意図的に難しくすべきだと言うつもりはない。だが、会社をつくることは常に、その会社自体をつくること以上の意味を持ってきたのだと認識することには価値があると信じている。

AIは今後も、私たちが構築することを支援する能力を高めていくだろう。それは、起業家になるうえで、いまが歴史上最も刺激的な時代の1つであることを意味するはずだ。だが、判断力、確信、粘り強さを育てる旅の一部は、なお私たち自身のものである。

30年を経て、私が最も価値を見いだすようになったのは、そのことだと思う。私は長い時間、自分は単に会社をつくっているのだと考えていた。いまでは、その一つひとつの会社と、それをつくる中で直面した逆境が、今日の起業家としての私、そして人間としての私を形づくる助けになったのだとわかっている。

そしてAIが、私たちの多くが思う以上に起業を容易かつ迅速なものにしていくのなら、成長を助けてくれる旅の一部を手放さない理由は、なおさら大きいのかもしれない。

forbes.com 原文

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