かつて投資家は、他の投資家より優れた情報を持つか、同じ情報からより鋭い分析を導くことで優位に立てた。だが、情報力と分析力による差は急速に縮んでいる。技術の進歩と規制により、データや情報へのアクセス格差も小さくなった。AIモデルは数分で、将来のキャッシュフローを現在価値に割り引いて企業価値を見積もるディスカウント・キャッシュフロー(DCF)モデルを構築できる。さらに、衛星画像やクレジットカード利用データなど、従来は入手しにくかった情報を販売する事業者から、以前なら独自に集めるしかなかったデータを購入できるようになった。
では、市場で他の投資家を上回るために、何が優位性として残るのか。
投資で優位に立つには、取引相手を上回る理由が必要
次に株を売買するときは、「自分にはこれほど割安に見える価格で、なぜ相手は株を売ってくれるのか。取引の反対側には誰がいるのか」と自問してほしい。
実際の取引相手は、市場指数への連動を目指すインデックスファンドや、数理モデルに基づいて運用するクオンツファンドである可能性が高い。ただし、市場で実際に売買が成立する価格を決めるのは、インデックスファンドやクオンツファンドではない。企業の財務状況や業績などのファンダメンタルズを重視する投資家だ。多くは知性が高く、高学歴で、経験豊富な機関投資家である。そこで、自分にはそうした投資家を上回るどのような優位性があるのかを問う必要がある。
投資家として成功できるかどうかは、取引の反対側にいる相手にはない明確な優位性を持てるかどうかにかかっている。
高いIQでも投資判断の失敗は防げない
ウォーレン・バフェットは繰り返し述べている。一般的な水準の知能があれば、それ以上のIQの高さが投資の成功を決めるわけではない。高いIQは投資判断を組み立てる助けになるが、実証研究と現実の事例では、IQが高いほど投資成果が良くなるとは示されていない。むしろ、自信過剰のようにリターンを損なう行動につながることさえある。
米金融誌『Smart Money』は2001年、高IQ団体メンサの投資クラブについて、15年間のリターンがわずか2.5%で、S&P 500指数を年率で約13ポイント下回ったと報じた。
ジョン・メリウェザーは、数十年の経験を持つ伝説的な債券トレーダーで、一流ビジネススクールの経営学修士(MBA)取得者だった。メリウェザーはヘッジファンドのロングターム・キャピタル・マネジメント(LTCM)を設立した。LTCMの取締役会にはノーベル経済学賞受賞者が2人加わり、トレーディング部門には博士号取得者や米連邦準備制度理事会(FRB)の元高官がそろっていた。それでもLTCMは、自分たちの判断を確信し過ぎた取引に高いレバレッジをかけたため破綻した。知性の高さでは、過度の確信という気質上の弱点を補えなかった。
同様の例は2026年にもあった。レオポルド・アッシェンブレナーは19歳でコロンビア大学を首席卒業し、OpenAIで研究者を務めた。アッシェンブレナーが立ち上げたヘッジファンドのシチュエーショナル・アウェアネスは、2年足らずで運用資産を約450億ドル(約7兆1100億円)まで拡大した。ところが2026年7月、同ファンドのポートフォリオ価値は67%下落し、壊滅的な打撃を受けた。レバレッジと強い確信の組み合わせが、再び大きな損失につながった。
優秀な投資家が大きく失敗した例は他にも多い。結果を分けるのはIQではない。優れた頭脳を持つ投資家でも陥る過ちを避けるための気質と規律である。



