投資家に残る優位性は自分の行動を制御する力
情報面と分析面の優位性は、この20年ほどで弱まってきた。それでも、自分の行動を制御することで生まれる優位性は残っている。マイケル・モーブッシンは、投資家の行動によって市場価格と価値に差が生じることがあると説明している。投資家の行動が生む価格のゆがみが、投資機会になるという考え方だ。
自分の行動を制御して優位に立つ鍵は、忍耐、規律、柔軟な思考、自我という4つの資質にある。
忍耐と規律で短期の雑音や感情に流されない
忍耐とは、根拠の弱いデータが1つ出ただけで売買したくなる衝動を抑えることだ。短期的な痛みに耐えて保有を続け、投資判断に疲れても焦らず、平凡な投資機会に手を出さずに数少ない優れた機会を待つ。要するに、短期的な雑音と長期的に重要なシグナルを見分ける力である。景気循環による変動や四半期決算などは短期的な雑音になりやすい。企業価値に照らした株価の評価、企業内部者による株式購入、企業の業績や財務とは無関係な理由で生じる売りは、重要なシグナルになり得る。
規律とは、どこまで割安なら投資するかを先に決め、その基準を満たす場合だけ買い、割安度に応じて保有額を調整することだ。強制的な売却に追い込まれかねないレバレッジも避ける。投資前には、投資が失敗したと仮定して原因になり得るリスクを書き出す「プレモータム」を行う。自分の考えを支持する情報ばかり集めてしまう確証バイアスなど、行動上の弱点を抑えるためだ。周囲の投資家が冷静さを失っても感情に巻き込まれず、合理的かつ客観的に判断する。
柔軟な思考と自我の管理が判断の修正を可能にする
柔軟な思考とは、バランスの取れた見方を保ち、特定の考え方を絶対視せず、反対意見も理解することだ。事実が変われば、自分の考えも変える。必要なのは知的な柔軟性である。
ここでいう自我の管理とは、自分の面目を守ることより利益を優先することだ。自信過剰を抑え、自分の誤りを率直に認める。成功している投資家でも、判断を誤ることは多いと理解する必要がある。自我は、投資判断を支える方向にも、誤らせる方向にも働く。下落局面で保有を続ける確信は必要だが、同じ確信が「自分は間違わない」という思い込みにも変わり得る。
自分の偏りを知り、他者の短期志向を投資機会に変える
投資家の行動が生む価格のゆがみは、最も長く残る投資機会の源かもしれない。人間の行動特性は幼い頃から深く身につくため、簡単には変わらない。同じ理由で、投資家の行動が生む価格のゆがみを利用することも難しい。他者の弱点ははっきり見えても、自分の弱点はほとんど見えないからだ。
自分の行動上の弱点を認識するだけでも、判断の盲点に気付きやすくなる。例えば、最初に得た情報に引きずられるアンカリングや、周囲に合わせる同調がある。損失を過度に避けようとする損失回避や、自分の知識や能力を過大評価する自信過剰も含まれる。
重要なのは、自分の長所と短所だけではない。他の投資家が持つ行動上の弱点も投資判断に関わる。企業価値の計算上、次の四半期決算だけが企業価値全体に及ぼす影響は小さい。それでも投資家は短期的なニュースに執着する。今後機会があり次第、投資家の弱点の中でも最大のものといえる短期志向に触れよう。さらに、短期的なニュースで生じた価格変動を長期的な視点から利用する「時間軸の裁定取引」によって、他の投資家の短期志向を投資機会に変える方法を論じる。


