プライベートエクイティ(PE)は新たな時代に入りつつある。
長年、この業界は、よく知られた、そして非常に成功してきた「方程式」に依拠してきた。魅力的な案件を発掘し、レバレッジをかけ、経営をプロフェッショナル化し、レポーティングを改善し、コストを削減し、価格設定を最適化し、ボルトオン買収(既存の投資先への補完的な買収)を追求し、マルチプル(投資倍率)の拡大を捉え、競争入札を通じて迅速にエグジット(資金回収)する、というものだ。
現在、その方程式を実行することは極めて難しくなっている。
なぜか。PEに逆風をもたらしているのは、循環的な圧力だけではない。構造変化である。AIは、業界を横断して事業モデル、コスト構造、生産性、顧客への価値提案、競争優位を再構築し始めている。地政学的な分断は、市場、規制、サプライチェーン、税制、テクノロジーへのアクセス、人材の流れをより不確実なものにしている。
この2つの圧力が、プライベートエクイティにおける価値創造の意味を変えつつある。
企業を分けるものは何か
業界はすでに、保有期間の長期化、限られたエグジット機会、バリュエーションへの圧力、そしてここ数十年で最も厳しい資金調達環境の一つに直面している。このサイクルは、すべての企業に同じ影響を及ぼすわけではない。統合を進める能力を持つ企業と、統合の対象となる企業とを選別する可能性が高い。
成功に最も適したポジションにある企業には、2つの明確な特徴がある。
• 第1に、AIによって大きく変革され得る事業への実質的なエクスポージャーを持つポートフォリオを保有していることだ。
• 第2に、人間の判断、AIを活用した変革、実践的な地政学戦略を組み合わせた、再現可能な価値創造モデルを有していることだ。
第1の点が重要なのは、AIがすべての資産を同じように押し上げるわけではないからである。最も恩恵を受ける可能性が高い企業は、強力な経営陣、高いデジタル成熟度、独自データセット、イノベーション能力、そして仕事の進め方を再設計する俊敏性を備えた企業である。
われわれの経験では、こうした企業はすでにより速く動いている。AIを孤立したユースケースの集合として扱ってはいない。機能、ワークフロー、意思決定、価格設定、製品開発、顧客サービス、生産性を、企業全体で見直すために活用している。
第2の点も同じく重要である。AIによる変革は、単なるテクノロジーの導入に集約されるものではない。大規模言語モデル(LLM)、データ基盤、AIエンジニアリング能力、クラウドへのアクセスは必要だが、それだけでは不十分だ。真の価値は、これらのツールをどこに適用するか、それらを中心に事業をどう再設計するか、そして変化をどう定着させるかを理解することから生まれる。
そのためには、事業運営の経験、セクターに関する専門知識、領域知識、人間の判断が必要である。機械が支援する意思決定は、取締役会、規制当局、顧客、従業員、裁判所に対して説明可能で、監査可能で、防御可能でなければならない。それがなければ、AI導入は活動を生み出すことはあっても、持続的な企業価値を創出することはない。
成功には、地政学に対するより洗練されたアプローチも必要である。
信頼に足る企業の地政学戦略は、もはや理論上の演習ではない。紙の上で機能するだけでは不十分であり、実務で機能する必要がある。市場エクスポージャー、サプライチェーン、ベンダー、規制、税制、データ、テクノロジー基盤、人材に関する実際の意思決定を形づくるものでなければならない。企業には、市場から撤退し、資産を売却し、サプライヤーを切り替え、テクノロジーパートナーを多様化し、政治的または規制上のショックに迅速に対応する柔軟性が求められる。
したがって、AI主導の経済においては、地政学戦略は技術主権にも対処すべきである。企業は、複数のAIモデル提供者へのアクセス、重要な助言・実装関係に対するコントロール、関連データと知的財産の安全な所有、複数のハードウェアおよびクラウドの選択肢、世界最高水準のAI人材への多様なアクセスを必要とする。
あまりに多くの企業がテクノロジーを先行させている
プライベートエクイティにおける現在のAI施策の多くが期待に届かないリスクを抱えるのは、この点においてである。
われわれは、スタートアップがAIを活用したエンタープライズソリューションを提供し、導入支援企業がAIネイティブ製品を投入し、PEファンドがフロンティアAIラボと組んでAI専門のベンチャーを設立する動きを目にしている。こうした取り組みの多くには価値がある。一部は大きな成果を生むだろう。しかし、あまりにも多くが主としてテクノロジー主導のままである。
それでは、より大きな機会を逃すことになる。
AI主導の価値創造とは、単にワークフローを自動化したり、最新ツールを導入したりすることではない。企業機能をエンドツーエンドで再設計することである。企業が意思決定を行い、資源を配分し、顧客にサービスを提供し、リスクを管理し、人材を組織し、競争する方法を変えることである。またそれは、地政学的な変動がもはや例外ではなく、事業環境に恒常的に組み込まれた要素となった世界で、これを実行することでもある。
プライベートエクイティの戦略の定石は変わる
真のイノベーションは、初日に誰が最高のテックスタックを持っているかではない。状況の変化に応じて、テクノロジー、戦略、ガバナンス、事業運営の専門性、地政学的な機動力を組み合わせ、継続的に適応できるのは誰か、という点にある。したがって、プライベートエクイティにおける将来の成功の姿は、これまでとは異なるものになる。
成功する企業は、単に「上手に買う」だけでなく、より「上手に変革する」だろう。
そうした企業は、AIが業績の経済性を大きく改善できる事業を保有する。AIの潜在力を、測定可能な成長、利益率の拡大、より強固なレジリエンス、より鋭い競争ポジションへと変える能力を持つ。地政学的リスクがどこで下振れ要因となり、どこで新たな優位性を生み得るのかを理解する。より適応力が高く、よりデータに富み、より強靱で、継続的な再発明が可能な企業を構築する。
次のプライベートエクイティのサイクルは、これらの能力を統合する企業が主導することになる。
従来のプライベートエクイティのプレーブックは、高速かつ高リターンの時代を生み出した。しかし次の時代が報いるのは、別のものだ。AI、人間の専門性、地政学的な適応力を通じて、事業を継続的に変革できる企業である。先頭に立つ企業は、単にプレーブックをよりうまく実行するだけではない。価値創造のルールそのものをまったく新しく書き換えることになる。



