テクノロジーの変遷を40年間にわたって取材してきたが、先週末のような瞬間は記憶にない。AI(人工知能)が人類に存亡の危機をもたらすか否かをめぐって研究者たちの議論が沸騰する中、世界の二大経済大国の指導者が根本的に対立するAI構想を相次いで打ち出し、技術革新の時代における核心的な緊張関係をありありと浮かび上がらせたのである。
トランプは減速論を一蹴、AI開発で中国にリードと発言
その対比は、これ以上ないほど鮮明だ。
ドナルド・トランプ米大統領は13日、米AI企業から発せられた警告を一蹴した。Anthropic(アンソロピック)、OpenAI、Google DeepMind(グーグル・ディープマインド)の研究者たちは、AI開発のペースに警鐘を鳴らしている。しかし、トランプのメッセージは、AI分野における米国のリーダーシップは譲れないという明確なものだった。
「われわれはAIで中国をリードしている。(中略)率直に言って、この状態を維持したい。なぜなら、AIを制する者が勝者となるからだ」
まるで冷戦時代の戦略書から抜き出してきたかのようなゼロサムゲームの物言いだが、適用される対象はミサイル備蓄とはまったく異なる性質を持つ技術だ。
習近平、BRICS首脳会議でAIの共同統治を呼びかけ
同日、中国の習近平国家主席はインドで開かれていたBRICS首脳会議で、正反対の構想を提示した。グローバルサウス諸国の首脳らに向けた演説で、AIのオープンソース開発に向けた共同体の設立、国際協力、共同ガバナンスの枠組み構築を呼びかけたのだ。もっとも、具体的な内容への言及は著しく乏しかった。それは、最先端のAI開発で圧倒的優位に立つ二大国によってAI時代から締め出されることを警戒する国々に向けた、調整されたメッセージだった。
囲い込みとオープンスタンダードをめぐる対立が、市場から国家間へ
業界のサイクルをこれまで数多く見てきたが、馴染み深いパターンが今まさに繰り返されている。パーソナルコンピューターの黎明期と続くインターネット時代の幕開けの際にも、独自規格による囲い込みとオープンスタンダードとの間で同様の緊張が見られた。だが、当時の議論は主に市場の中で展開されていた。
今、私たちが目の当たりにしているのは、同じ緊張関係が地政学的な舞台で繰り広げられている事態だ。世界がAIとどのように関わるべきかをめぐって、2つの国家が本質的に異なるオペレーティングシステムを提案しているのである。
テクノロジーが世界中に普及する様子を長年見てきた身として、筆者が最も懸念しているのは、どちらの構想もそれだけでは不十分だということだ。



