テネシー大学でサプライチェーンマネジメントの准教授を務めるサラ・シューは、Supply Chain Management Reviewの記事で、サプライネットワーク全体を自律的に運用しようとする大規模言語モデルAIよりも、焦点を絞ったAIアプリケーションのほうがはるかに高いリターンをもたらすと論じている。要するに、従来のプロセスを置き換えるのではなく拡張するAIベースのシステムのほうが優れているということだ。主要なサプライチェーンシステムベンダーは、エンドツーエンドのサプライチェーンを管理するエージェント型AIオーケストレーションについて語っている。筆者はシュー氏に同意する。われわれはまだそこまで到達していない。
従来型の業務を拡張することで高いROIをもたらすAIベースのソリューションには、いくつかの例がある。筆者が詳しく知らなかったものの1つが、製造ラインの終端で製品を検査するAIマシンビジョンシステム(機械視覚システム)だった。この分野について理解を深めるため、筆者はOverviewのCEOであるクリス・バン・ダイクと、同社の顧客の1社であるSKFに話を聞いた。
Overviewは、現在のAIブームがこれほど広まる前の2019年に設立された。バン・ダイク氏はテスラで10年近く働いていた。リノにあるテスラのバッテリー工場の立ち上げを支援し、「高度に自動化された工場を構築する難しさを身をもって経験した。私はサンフランシスコにも住んでいて、AI分野の友人もいた」と語る。
彼はコンピュータービジョンの進歩を目にし、欠陥検出向けのAIカメラシステムが製造業にとって優れた用途になると確信した。同時に、競合がほとんどいないことにも気づいた。「そこで、私は別の同僚とともにテスラを離れ、その後AIの専門知識を持つ2人のソフトウェアエンジニアと合流し、製造業への深い理解とコンピュータービジョンの専門性を組み合わせて会社を立ち上げた」
最初の数年間、同社はコンサルティングサービスを基盤とする企業だった。2023年に最初の製品を発売して以降、急速に成長している。Overviewは現在、世界で70人を超える従業員を抱え、今年の売上高は2500万ドル(約38億9000万円)に達する見通しだ。同社のソリューションは、20カ国超の数百の工場に導入されている。同社の価値提案は、このシステムが欠陥検出に優れ、使いやすく、既存プロセスへのセットアップと組み込みが容易であり、インターネット接続を必要とせずエッジで稼働する点にある。
AIモデルは、製造部品の幅広い物理的欠陥を検出できるよう訓練されている。対象には、表面のひび、傷、へこみ、位置ずれや寸法の逸脱、部品の欠落、汚染や異物、色や質感の異常などが含まれるが、これらに限定されない。1つのモデルでこれらすべてを処理するため、別々のシステムを連携させる必要はない。
Overviewとほぼ同時期に創業し、自社をAIネイティブだと主張するサプライチェーンソリューション提供企業もある。そうした主張は疑わしいことが多い。Overviewは本当の意味でAIネイティブである。テスラは自動運転車の開発を目指していた。「車には道路を見ているカメラが搭載されていた」が、それらは実際には非常に高度な解釈と推論を数多く行っていた、とバン・ダイク氏は説明する。「工場向けに購入できるカメラは、それよりはるかに遅れていた」
同社の顧客であるSKFが確認している主張の1つは、同社の学習モデルを1時間で訓練できるというものだ。ユーザーは画像にラベルを付け、「良品」と「不良品」の部品を区別する。
カレン・ハオのベストセラー・ノンフィクション書籍『Empire of AI: Dreams and Nightmares in Sam Altman’s OpenAI』で、彼女はモデルの訓練を支えたケニアやベネズエラの低賃金労働者の大群について記している。初期の大規模言語モデルを訓練するには何年もかかった。
しかしOverviewでは、ディープラーニングベースの検査にResNetモデルを使用している。このアーキテクチャは「スキップ接続」を使い、データや精度を失うことなく非常に深いニューラルネットワークを訓練する。バン・ダイク氏はまた、この訓練速度は、これが用途を絞ったユースケースであることを反映していると指摘する。カメラシステムはまた、強力なNVIDIAチップを使用し、エッジコンピューティングと高速な訓練を可能にしている。
同社は、顧客を年間料金に縛り付けるハードウェア・アズ・ア・サービス型の価格モデルも採用していない。また、高額になり得るトークン課金も採用していない。これは初期費用による1回限りの購入である。スマートカメラの価格は5000ドル(約77万円)から1万5000ドル(約234万円)で、新しいPCベースのシステムは2万5000ドル(約389万円)以上だ。注意すべき点が1つある。一部のラインでは、4台以上のカメラを連携させる必要があるため、システム価格は高くなる。
では、顧客は何と言っているのか。
SKFとAIベースの製品検査
筆者は顧客の声を聞くため、SKF(Nasdaq: SKF AおよびSKF B)の制御・自動化エンジニアであるデイブ・トーマス氏に話を聞いた。SKFは、世界に約140の工場を持つスウェーデンのグローバルエンジニアリング企業である。同社はベアリング、シール、潤滑システム、状態監視サービスを専門としている。トーマス氏はジョージア州フラワリーブランチの工場で働いている。
SKFは何年にもわたりビジョンソリューションを探しており、複数のメーカーを試していた。トーマス氏が求めていたのは、非常に高精度な検査を実行し、セットアップが容易なソリューションだった。他のソリューションでは、システムを長期的に維持するために「基本的にデータサイエンティストでなければならなかった」。Overviewを導入する前は、あるプロジェクトでは「新しい製品ラインに対応するため、セットアップ、プログラミング、修正に何時間もかかっていた」。SKFはデジタル製造戦略も進めており、AIはそのビジョンに合致している。
OverviewのAIシステムでは、ユーザーが色や形状など特定の特徴を強調表示してモデルを訓練できる。このシステムはモデル全体ではなく特定の特徴を探すため、類似点を共有していれば、多くの異なる部品が同じ訓練済み画像を使える場合が多い。
この現地施設では現在、3つのカメラシステムが稼働している。別の工場でもこのソリューションが使われている。SKFはさらに9つのシステムを追加する計画だ。
当初のユースケースは比較的シンプルだった。セットアップと導入にかかった時間は約1日半にすぎない。訓練では、さまざまな位置や角度から画像を取り込み、その製品が良品かどうかをシステムに伝える。
しかし現在、同社はOverviewをより複雑な方法で使用している。あるシステムでは4台のカメラを使い、32の異なる機能を実行している。このシステムには、さまざまな照明設定と部品の回転が必要だ。「当然ながら、システムの複雑性が高ければ高いほど」とトーマス氏は指摘する。「導入にかかる時間は長くなる。その後、われわれは自動化と複雑性を大幅に高めた段階へ移行した。Overviewのシステムは非常に複雑なシステムにもうまく適応している」
このシステムは、特定の特徴が製品上にあることを確認する。欠陥の探索には人間とカメラシステムの両方が使われている。人またはシステムのいずれかが欠陥を特定した場合、その製品は検査に不合格となる。長期的には、検査にはカメラシステムのみを使用したい考えだ。
SKFは設備投資について、24カ月未満の回収期間を目標としている。同社はこれを達成するだろう。しかし短期的なROIより重要なのは、欠陥のある部品が顧客に届くのを防ぎ、同社の評判を守ることだ。トーマス氏は、優れたカスタマーサポート、納期通りの納品、定期的なソフトウェア更新についてOverviewを称賛した。
今後、このグローバルメーカーはビジョンシステムをMES(製造実行システム)やその他のシステムに、より深く統合する計画だ。
SKFはまた、保全、品質、段取りに関する問題を予測するため、焦点を絞ったAIへと移行している。その他の将来的なデジタル目標には、世界各地の工場間のコミュニケーションのさらなる効率化や、保全、スケジューリング、発注システムにまたがる統合的なデータ共有が含まれる。



