金は貴金属と呼ばれるが、実際には「卑劣な金属」と呼ぶべきかもしれない。歴史上、金ほど人々に恐ろしい行動を取らせてきた実体物は存在しないからだ。
確かに美しい。筆者も金の魅力を否定するつもりはない。多くの人には、金を手にし、所有したいという原始的な衝動がある。ほんの一片の金を見つけただけで汗をかく人を見たことがあるし、金属探知機で古代の金の遺物を見つけた人が、YouTubeで声を限りに叫ぶ姿も目にしたことがある。おそらく石油を別にすれば、こうした魅力が金をこの世界で最も政治的な資産にしている。そのために残念ながら、金について語るときには政治について語らざるを得ない。
金の価格を左右する3つの主要因は、すべて政治的なものであり、そのうちの2つは、現在進行中の米中間の対立に直接起因している。この概念は「先進国対中国」へと広げるべきだろう。なぜなら、現在中国に対抗しているのは米国だけでなく、欧州も同様だからだ。欧州は現在、急速に高まる中国の経済的覇権に追いつく必要性に直面している。
金という「政治的資産」
もちろん、これについては賛否両論がある。だが、米国が自国の産出物から中国を締め出し、中国も同じことをしたら、どのような構図になるだろうか。米国がフェイスブック、グーグル、スペースX、アマゾン、エヌビディアを、中国から切り離す場面を想像してみてほしい。一方で中国が、西側が依存している医薬品前駆体(原材料)や、建築用釘をはじめとする汎用資材などの供給を止めたら何が起きるだろうか。
中国の極端な重商主義によってグローバル化からの離脱が進み、あらゆるものが作り替えられている。そして、国家間における最後の究極の通貨は金といえる。こうした移行は平和と繁栄に向かう道ではなく、ボラティリティに向かう道だ。金は戦争のためのものであり、ボラティリティ曲線の極限は戦争である。ボラティリティが上がれば金も上がる。
米中対立と国家防衛がもたらす「金高騰」
筆者が以前このコラムで予測した、最初の急騰前から用いているこのモデルに当てはめると、2027年に台湾をめぐって中国が衝突を起こすとの見通しが、金価格を今年の最高値へと押し上げた。その後、中国人民解放軍と中国共産党との間の亀裂によって、その可能性が立ち消えになり金価格は下落した。しかし、金の価格を動かす要因はそれで終わりではない。中国が問題視されるなか、諸国は準備資産としてより多くの金を蓄える必要があり、もはやそれほど急ぐ必要はなくなったかもしれないが、依然としてそれは上昇圧力となっている。
そして、米国の動向も気になる。米国がカナダやグリーンランドを威圧し続けていることは、各国がフォートノックス(米連邦保有金の保管庫)の金ではなく、自国の金に依存する必要があるというシグナルでもある。これは米国がグリーンランドの首都ヌークに進軍しようとしている兆候ではない。ただ各国に、自国の資産防衛を進めるべきだと示しているにすぎない。オランダが自国の金を他国の金庫ではなく、自国の地下に置きたがる理由はここにある。したがって、米国と中国の政治的な立ち位置はいずれも、金にとっては長期的な追い風となり、それが消えることはない。この慢性的な圧力は、金価格を高止まりさせるだろう。



