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2015.12.12 14:00

イギリスは本当にロシアを恐れているか

Frederic Legrand - COMEO / Shutterstock

Frederic Legrand - COMEO / Shutterstock

イギリスのデービッド・キャメロン首相は11月23日、防衛費の120億ポンド(約2,200億円)の上乗せを国会で訴えた。目的は、ロシアと戦うための現金を手に入れることである。

テロリストやロシアの潜水艦と戦うための重装備に磨きがかかる一方で、より有効な警察力の方は、予算削減の危機に瀕している。キャメロン首相は明らかに、シリアはロシアによってではなく、アメリカの外交政策によって解決できるというワシントンの見方を採用しているようだ。ロシアの脅威というこのニュースが伝えられたのは、トルコのF-16戦闘機が、ロシアのスホーイSu-24を撃ち落とす前日のことだった。SU-24が、シリアとの国境付近の領空を侵犯したと、トルコは主張している。ロシアは「イスラム国」をはじめとするシリア国内の反政府勢力に爆撃を繰り返している。戦闘機が撃墜されたことにより、ロシアの政治リスクは24日、最大限に高まった。

マーケット・ベクトル・ロシアETF(RSX)は、これに反応して2.7パーセント下落。ロシア国債スプレッドは9ベーシス・ポイント前後上昇した。今日の国債スプレッドにおいては最も大きな幅だったものの、この動きはそれほど目立ったものではなかった。

シリアのテロリストとの戦いにおいて、11月第3週には、ロシアは歓迎すべき勢力と見られていたのに、西側諸国は、その翌週にはロシアを孤立させたくなったようで、キャメロン首相は防衛費を増やすために、ロシアを敵に仕立て上げている。このことは、ウクライナ危機の制裁解除や制裁緩和にとって朗報ではない。西側が敵対心を抱いているとロシアが解釈すれば、それが現実のものであれ、空想上のものであれ、ロシアは西側に対して強硬な姿勢を打ち出す恐れがあるからだ。

投資家は、外交政策オタクと同じように、ロシアと西側の関係に注目している。

かつてはソブリンリスクが、新興市場のリスクファクターの半分以上を占めていた。その次に大きな要素は経済的要因及び循環要因だった。ところが、この3年間は政治リスクが急速に問題となっており、このことはヨーロッパで顕著だ。感情は、株や債権の短期取引を促す。ヨーロッパでは選挙はより急進的になり、政党はより声高になって、国家主義が勢いを得ている。最近のシリアでの出来事は、国家の利益と国際的な利益の折り合いをつけることの難しさを示している。

「ロシアは歴史的同盟関係、敵意に満ちた反西欧プロパガンダ、そして『イスラム国』が門前のテロリスト国家であるという現実との間に挟まれています。クレムリンの政策がますます読みにくくなる中、こうした相反する要素がロシアにおける海外投資に影響を与えるでしょう」と、デモインのRS Investmentsで新興市場ファンド・マネジャーを務めるマイケル・レイナルは言う。

ロシアはより政治化している。

軍事産業は、キャメロン首相による5年間の国防費の恩恵を受けるだろう。好景気が続くバブルである。予算には、ボーイング社のP-8対潜哨戒機9機が組み込まれている。この哨戒機は、主にロシアの潜水艦に対抗するためのものだ。9月にキエフ行われた毎年恒例のヤルタ会議で、ウクライナ危機はヨーロッパの安全保障にとって脅威となるとしたウクライナ政府の主張を、キャメロン首相はなぞっているのだ。脅威とは何を意味するかと言えば、もちろんロシアの領土拡張だ。

一方で、イギリスは減少する歳入と、GDPの2パーセントの防衛費を維持せよというNATOの要求との狭間で苦しみ、国内の警察は予算削減の憂き目に遭いそうだ。NATOが要求する予算より多くを防衛費に充てることができるのは、NATO加盟国の中では、アメリカとギリシャとエストニアだけである。

ロンドン警視庁副総監のマーク・ロウリーは、この1年間で複数のテロ計画を未然に防いだのは、空軍ではなく警察だと語る。イギリスでテロリスト対策の陣頭指揮を執るロウリーは24日、イギリスだけでも「数千人」の国内で育ったテロリスト容疑者がいるとして、警察予算を維持するよう、内務特別委員会で訴えた。

11月13日にパリで発生した3つのグループによるテロ襲撃事件においては、8人のテロリストを逮捕及び射殺するのに100人の警官を要した。

イギリスがロシアを脅威と名指する中、ロシアの孤立はロシアとヨーロッパのビジネスにとって脅威であり続ける。

ドイツのシーメンスの最高経営責任者、ジョー・ケイザーは23日、『フィナンシャル・タイムズ』紙のインタビューに答えて、フランスにおけるテロ事件はビジネスに悪影響を及ぼすと語った。「投資とは未来を信じることであり、こういった事件が起きると、人々は待つのです」シーメンスはロシアのおよそ30の都市で事業を展開している。

待つことを余儀なくされる事業には、ターキッシュ・ストリームの名で知られるGazpromとBotas Petroleumのプロジェクトが、当然のことながら挙げられるだろう。すでに危機に瀕していたこのプロジェクトは、今となっては、完成を見ることは決してないように思われる。東ヨーロッパのその他の反ロシア政府は、EU内への延伸からGazpromを閉め出そうとしてきた。

プーチン大統領は脅威を感じている。ロシアの戦闘機をシリア内に撃ち落としたことは「重大な結果」を招くだろうと、プーチン大統領は警告した。24日の撃墜事件は、トルコとロシアの関係を傷つけた。外交手腕に長けた政治家なら償おうとするだろうが、報道されている声の大半はプーチン大統領のもので、プーチン大統領はどうやらご機嫌斜めのようだ。NATOは関与しようとせず、これはトルコとロシアの問題だと言っている。

さらに悪いことに、黒海に面したロシアのクリミア半島は、送電線が何者かに爆破され、大規模な停電に陥った。犯行声明は出ていない。

2014年3月、クリミアは住民投票によってウクライナからの離脱を決定。西側諸国はクリミアのロシアへの編入を認めていないものの、クリミアのウクライナへの返還を制裁解除の条件とはしていない。停戦と、ウクライナ東部のドンバス地方における民主的選挙の実施を要求したミンスク2協定では、クリミアは言及されていない。この地域で暮らす多くのロシア系市民は、ウクライナから離脱すること、あるいは、自治共和国となることを求めている。すでにウクライナの通貨ではなく、ルーブルを使用し始めた者すらいる。

ロシアへの制裁は、うまくいけば今冬にも終わるのではないかと考えていた人々は、はやる気持ちを抑えなければならなくなるだろう。制裁は、7月までは続きそうだ。制裁の延長に、1バレル50ドルを下回り続けると見られている原油価格が重なれば、ロシア証券は完全に売られることになるだろう。

欧州安全保障協力機構は、11月第3週の週末にドネツィクとルハンシクで複数の爆発と銃撃を確認したとし、ドネツィク空港周辺で停戦合意違反が増加していると報告している。

制裁はウクライナ次第。

だがもしロシアが、ワシントンの、不首尾に終わった中東における政権交代ポリシーによって、シリアにおける「イスラム国」との戦いへの支援がくじかれると感じたら、プーチン大統領はロシアを自ら孤立させてしまうか、あるいは、シリアから手を引くかするかもしれない。

編集 = Forbes JAPAN 編集部

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