従業員が抱える経済的な負担は、残念ながら軽くなる兆しが見えない。インフレや賃金の伸び悩み、税制の改正、そして国内外の出来事が、彼らの銀行口座に直接的な影響を及ぼしている。PwCが実施した調査によると、回答者の半数近く(49%)が、自身の給与が支出の増加に追いついていないと答えている。
私の臨床経験において、クライアントからは、家計のバランスをとるために極めて困難な二者択一を迫られているという声をよく耳にする。さらに問題を複雑にしているのは、彼らが経済的な不安を家庭内だけに留めておけないことだ。経営幹部の間では、従業員が単に節約しているだけでなく、経済的にも精神的にも限界の状態で1カ月をしのいでいるという声を耳にすることが増えている。モルガン・スタンレーの調査によると、人事担当役員の83%が「従業員個人の財務問題が生産性に影響を及ぼしている」と懸念しており、この割合は前年から5パーセントポイント上昇している。
見え始めた前向きな兆し
このような暗い兆候が厳然として存在する一方で、これに対抗するための有望な取り組みを進める企業も多い。多くの組織が、ファイナンシャル・ウェルネス・プログラムを含む幅広いサービスや支援を提供することが、ビジネス上も合理的であると気づき始めている。モルガン・スタンレーの報告によると、人事担当役員の59%が採用と定着を最優先の戦略的課題に掲げており、その目標を達成するためには金融関連の福利厚生を提供することが最善の方法であると理解している。
また、従業員側も好意的な反応を示している。ある調査によると、ファイナンシャル・ウェルネス・プログラムを利用できる環境にある従業員の47%が同プログラムを活用した。また、その約半数が、プログラムが「非常に」または「極めて」有益であったと答えている。
しかし、ファイナンシャル・セラピストとしての実践の中で観察している限り、企業のリーダーたちが状況の全体像を十分に把握しているとは言えない。クレジットカードの債務管理や緊急時の貯蓄の確保について、単発の講義やオンライン講座を提供することと、従業員が健全なマネー習慣を長期的に維持できるようになることとは、まったくの別問題である。
従業員のファイナンシャル・ウェルネスの達成を支援するためのリソースは、数多く存在する。これには、オンラインの予算管理・キャッシュフローツールや、この分野を専門とする認定セラピストの増加、地域のサポートグループなどが含まれる。しかし、従業員を最も効果的に支援するためには、知識と感情の両面において押さえるべき特定のポイントがあることが分かってきた。
知識やツールを提供するだけでは不十分
持続可能なファイナンシャル・ウェルネスを実現するには、いかに実用的なツールが役立つとはいえ、それらを従業員に与えたり、スプレッドシートで計算させたりするだけでは不十分であることは、以前から明らかだった。ファイナンシャル・ウェルネスを定着させるためには、従業員が以下のステップを踏む必要がある。
• 乱れた金銭行動の根本原因を理解する(多くの場合、幼少期から引き継がれた神経系や行動のパターンが原因となっている)。
• これらの問題に対処するための効果的なツールを入手し、その使い方を学ぶ。
• 財務目標と「マネーシステム」(手作業を続けることなく、資金の出入りを自動的に管理するプロセス)を簡素化する。
• 「自分は適切な経済的判断ができる」という確証となる小さな成功体験を積み重ねることで、本物の自信を築く。
臨床研究に基づくこのファイナンシャル・ウェルネスへのアプローチは、経済的ストレスを抱える従業員が負債を克服し、持続可能な前向きなマネー習慣を築くのを手助けする。ここで強調したいのは、持続可能という点だ。予算管理や貯蓄計画といった従来の財務戦略に、必要な感情面や行動面のケアを組み合わせて補強することで、雇用主は、従業員を窮地(およびそれに伴う経済的ストレス)に陥れる原因となった元の習慣を断ち切るための環境を整えることができる。
科学的根拠に基づくアプローチ
私自身の臨床において、まずはクライアントが感情のバランスを取り戻せるよう支援することが不可欠だと実感している。「サバイバルモード(生存モード)」に陥っているとき、冷静に考えたり、合理的な経済的判断を下したりすることは誰にもできない。生物学的に、人間はそのようにできているのだ。経済的なストレスは、適切な意思決定に必要な認知機能を損なう。クライアントがこのサバイバルモードの状態で私のところに来たとき、最初に行うのは、神経系を落ち着かせ、合理的でクリアな思考が再び機能する感情の土台へと戻ることだ。
次の段階では、自己検証を行う。クライアントは自らの行動を分析し、足かせになっている可能性のある古い思考パターンを特定する。多くの金銭習慣は、私たちの無意識のプログラミング、すなわち家族、文化、社会から受け継いだ感情的・行動的パターンの一部である。こうした古いパターンや物語を検証し、解きほぐし、自分にとって役立っていないものを捨てると意図的に選択することは、人が起こし得る最も重要な変化の一つである。
その次のステップは、簡素化である。研究によると、意志の力は有限な資源であり、1日の中で少しずつ消耗していく。従業員の経済生活は、住宅ローンの返済、クレジットカードの支払い、複数のアカウントを通じた数々のサブスクリプションなど、複雑になりがちだ。目標達成を容易にする経済行動(定期的な401(k)拠出の設定など)を自動化するマネーシステムを構築することが極めて重要になる。従業員が最優先事項を1つだけ特定し、(次のステップに進む前に)すべてのリソースをその1点に集中させることで、ストレスを大幅に軽減できることが分かっている。
最後に、従業員はお金に対する自己効力感(自信)を育む必要がある。私が勧めているのは、従業員に中身のない励ましの言葉をかけることではなく、実証された神経科学の知見を応用することだ。確かに、従業員はまず自分が何を「すべき」かを理解しなければならない。しかし同時に、それを実行する能力があると信じる必要もある。過去の経験によって、自分は単にお金の扱いが苦手なのだと思い込んでいるかもしれない。従業員が自分自身を別の見方で捉え始められるよう後押しすることが重要である。
緩やかではあっても確かな経済的成功の兆候が見え始めると、人は自分を「健全なマネー行動をとることができる人間」と認識するようになる。これこそが、持続的な行動変容が起こる瞬間である。
従業員のファイナンシャル・ウェルネスへの投資を最大限に活かす
雇用主による従業員のファイナンシャル・ウェルネスへの支出は、今後数年間で12億ドル(約1870億円)以上に達すると予測されている。こうしたプログラムの長期的なROI(投資対効果)がどのようなものになるかは、今後の経過を見守るほかない。しかし、これまでに引用した報告書の調査結果やAARP(全米退職者協会)のデータは、最も効果的なファイナンシャル・ウェルネス・プログラムとは、教育だけでなく、実用的なツールと、持続的な行動および心理的変化へのサポートを組み合わせたものであることを示唆している。適切なサポートがあれば真の変容がもたらされるのを何度も目の当たりにしてきた私にとって、これは決して驚くべきことではない。
本稿で提供する情報は、投資、税務、金融に関する助言ではない。個別の状況に関する助言については、資格を有する専門家に相談すべきである。



