ビジネス

2015.12.13 14:00

米国で最も憎まれる若手社長 マーティン・シュクレリに反省の色無し

r.classen / Shutterstock

製薬会社ターリング・ファーマシューティカルズの若きCEOマーティン・シュクレリ(32)は、今年の米国で「最も憎まれている経営者」と言っていいだろう。彼は先日のフォーブス・ヘルスケア・サミットにおいて「クスリの値段はもっと上げますよ。それが私の仕事ですから」と再び発言した。

シュクレリは、9月20日にエイズや一部のがん患者などが感染するトキソプラズマ症の治療薬「ダラプリム」の権利を買収し、1錠13.50ドル(約1620円)で販売されていた価格を、約55倍の750ドル(約9万円)に引き上げると発表した。

しかし、価格引き上げに関する挑発的なシュクレリの発言に批判が殺到。これを問題視したヒラリー・クリントンが、21日に「薬の価格是正問題に取り組む」と発言すると、その翌日シュクリルはダラプリムの価格の引き下げを約束した。

ところが、ヘルスケア・サミットのインタビューで、シュクレリはダラプリムの価格引き下げを断念したと説明した。彼の会社は立ち上げたばかりのスタートアップであり、まだ売上が必要な段階にあると主張。価格引き下げは政治家に強制されたものだと訴えた。また、流通モデルのために、ダラプリムの価格は引き上げざるを得ないのだと繰り返した。

インタビュー中にレポーターのマシュー・ハーパーは、シュクレリの価格引き上げに関する発言は、必ずしも悪意があったのではなく誤解されたのではないか尋ねた。シュクレリのような頭の切れる青年はメディアの餌食にされやすいと。

しかし、それに対してシュクレリは「私の仕事は病気の患者を良くすることではなく、お金を稼ぐことです」とハッキリと言い切った。

「株主は私が利益を出すことを期待しています。醜く、汚くとも、それが真実です。利益を最大にするというのは、医薬業界の人間が怖くて言えないことです」

批判を浴びるようなことをわざと言うのは、競合との競争の中で、犠牲を払うのも仕方ないと判断してのことでは? と訪ねても、
「そんなことは痛くも痒くもありません」とシュクレリは答える。彼が率いるターリングは、新たな新薬の獲得のために大手製薬会社と取引をしているとも言った。

薬価の引き上げは株主のためにやっていることだとシュクレリは強調するが、市民に対する責任やモラルも繰り返し問われている。これからダラプリムを必要とする患者たちはどうなるのだろうか?

薬価の引き上げはアメリカでは珍しいことではないが、この件に関する訴訟や政府の関与の仕方によっては、今後の医薬業界のビジネスのあり方が大きく変わることもありそうだ。

編集=的野裕子

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