数十年にわたり、競争力のある報酬とキャリアアップは、リーダー人材の定着を支える柱だった。これらの要素はいまなお重要だが、長期的な定着を左右する主要因ではなくなっていると私は考えている。
そして、最近のデータ(登録が必要)もそれを裏付けている。5月に実施されたBecker’sのLinkedIn調査では、医療機関がリーダーを引き留めるための取り組みにおいて、ワークライフバランスの改善や職場文化の向上といった要素が、報酬の引き上げよりもはるかに重要だと見なされていた。報酬の引き上げは、最も選択されなかった要素だった。
今日の経営幹部は、はるかに広い視点から機会を評価している。彼らが求めているのは、意義ある仕事、強固な組織文化、そして自身のウェルビーイングを犠牲にすることなくリーダーシップを発揮できる環境だ。この変化を認識し、適応している組織こそが、優れたリーダーを引きつけ、つなぎ留めるうえで最も有利な立場にあることは、すでに明らかになりつつあると私は考えている。
リーダーの優先事項は変化した
リーダーシップが容易だったことはない。だが、今日の経営幹部に課される要求は、これまでにないほど厳しい。リーダーは、財務上の圧力、人材不足、規制の変更、急速に変化する消費者の期待に、しばしば同時に対応することを求められている。
これほどの責任を担うなかで、多くのリーダーが成功の意味を再定義しているのは驚くことではない。報酬はいまも重要な検討要素である一方で、より大きな方程式を構成する一要素にすぎなくなっている。
シニアリーダーは、ますます次のような問いを投げかけるようになっている。
• 成功するために必要な支援を得られるのか。
• この組織の文化は、自分のリーダーシップスタイルや価値観と合致しているのか。
• 絶え間ないバーンアウト(燃え尽き症候群)に陥ることなく、有意義なインパクトを生み出せるのか。
• 効果的に率いるための裁量を持てるのか。
こうした問いへの答えは、給与だけでは見えてこない、リーダーがその役割を引き受け、そこにとどまるかどうかを示す手がかりになる。
従来型の定着戦略はなぜ効果を失いつつあるのか
組織が犯し得る最大の過ちの一つは、より大きな報酬パッケージだけで人材定着の問題を解決できると考えることだ。高い報酬は、誰かにオファーを受け入れさせる材料にはなるかもしれない。だが、リーダーが最終的に離職を選ぶ根本的な理由を解消することはほとんどない。
サポートが得られない、組織の優先事項とのつながりを感じられない、あるいは必要なワークライフバランスを維持できないという理由で、極めて条件の良い給与を辞退した優秀な経営幹部たちを私は見てきた。逆に、報酬が市場で最も高い水準ではなくても、個人としてもプロフェッショナルとしても自分に投資してくれる組織に、リーダーが深くコミットし続ける例も見てきた。
業界を問わず、リーダーの役割には大きな精神的負荷が伴う。経営幹部は単に業務を管理しているわけではない。変革のなかでチームを率い、人々に影響を与える意思決定を行い、日々大きな責任を担っている。持続可能なリーダーシップを支える環境がなければ、どれほど献身的なプロフェッショナルであっても、いずれ限界に達する。
競争優位性となった組織文化
リーダーたちと次のキャリアの機会について話す際、もちろん報酬も話題には上る。ただ、それが最大の関心事ではなくなったのだ。
代わりに、信頼、協働、透明性、組織の安定性が最も重視される。リーダーは、率直に意思疎通を図り、共通のビジョンに向けて足並みをそろえる経営チームに加わるのだという確信を求めている。
このような文化を育む組織は、報酬だけでは決して生み出せないもの、すなわち「心からのコミットメント」を創出する。
優秀な人材を勝ち取る組織とは
組織は、リーダーに対する自社の提供価値(バリュープロポジション)について、より広い視野で考える必要があると私は考えている。報酬は常に競争力を保つ必要があるが、それだけを差別化要因にすべきではない。リーダーは機会を評価する際、その役割が自身のキャリア目標やライフスタイル目標に合う妥当な選択肢かどうかを決める、ほかの変数も検討している。
強いリーダーシップ環境を持つ組織は、次のようなものを提供することで、経営幹部を重視していることを示せる。
• 真摯な経営層の支援とメンタリング
• リーダーにも仕事以外の生活があることを認める柔軟性
• 継続的な専門能力向上の機会
• 明確な戦略的方向性と足並みのそろったリーダーシップチーム
• 信頼、尊重、パーパス(目的意識)に基づく文化
こうした要素がそろっていると、リーダーはより高いエンゲージメントを維持し、高い水準で成果を上げ、組織に持続的なインパクトをもたらす可能性が高くなると私は感じている。
リーダー人材をめぐる競争が衰える気配はない。しかし、今日のリーダーが本当に重視しているものを理解している組織は、明確な優位に立つことができるだろう。



