欧州

2026.09.18 11:30

ノルウェー、北極海のロシア船を差し押さえ ウクライナへの賠償金巡り

ノルウェー領スバルバル諸島バレンツブルク。2022年02月04日撮影(Martin Zwick/REDA/Universal Images Group via Getty Images)

ノルウェー領スバルバル諸島バレンツブルク。2022年02月04日撮影(Martin Zwick/REDA/Universal Images Group via Getty Images)

ロシアとウクライナの戦争は、これまで両国の国境内にとどまっていた。だが、両国間の法廷闘争は北大西洋条約機構(NATO)加盟国をも巻き込んでいる。ウクライナは2014年以降、ロシアに対し、政府主導の巧妙な「ローフェア(法律を戦略的に活用する戦術)」を展開してきた。

ノルウェーの裁判所は今月初め、北極海に停泊するロシア船の差し押さえを命じた。これは、ロシアが2014年に一方的に併合したウクライナ南部クリミア半島で、同国国営天然ガス企業ナフトガスの資産を接収したことに対する同社の賠償請求を執行するための措置だった。オランダ・ハーグの仲裁裁判所は2023年、ロシアに対するナフトガスの42億2000万ドル(約6600億円)の賠償請求を認めていた。

ウクライナが仕掛けたローフェアにより、世界中の債権者がロシアの資産に手を伸ばせるようになった。この作戦はNATO加盟国に対し、ロシアの挑発に対抗するための新たな武器をもたらすことにもなった。ノルウェー、フィンランド、オーストリア、英国、フランスは、2023年の仲裁判断が自国の管轄区域内で執行可能であることを認めている。

ノルウェー警察は2日、北極海に位置する同国領スバルバル諸島バレンツブルクの岸壁で、船齢43年のロシアの海洋調査船「プロフェッソル・モルチャノフ号」に立ち入り、同船を差し押さえた。人口450人ほどのバレンツブルクは、ロシア国営石炭企業アルクチクウゴリが操業する炭鉱のあるロシア人集落だ。

ナフトガスは先月28日にモルチャノフ号の差し押さえを申し立てていた。ノルウェーの裁判所は、ロシアには外国の判決の執行を回避するための措置を講じてきた前例があるため、遅延のリスクがあると判断し、同国に事前通知することなくウクライナ側の申し立てを認めた。

同船の差し押さえは、凍結資産や株式、不動産とは異なり、ロシアが実際に運用していた有形資産に対し、ウクライナが仕掛けたローフェアに基づく執行が行われた初の事例となる。ノルウェー政府は「差し押さえの決定が下されるまで、この件については把握していなかった」と説明している。スバルバル諸島のラース・ファウセ知事は、「われわれは単に伝達役を務めたに過ぎない」と述べ、民事判決を執行しただけであることを強調した。

ウクライナがロシアに仕掛けるローフェア

ウクライナは2014年以降、ロシアに対して巧妙なローフェアを展開してきた。ウクライナの最大の成果の1つは、ロシアが「ウクライナは国内のロシア系住民に対してジェノサイド(集団殺害)を行っている」と主張し、それを侵攻の口実としたことが国連のジェノサイド条約違反に当たると訴え、国際司法裁判所(ICJ)から暫定措置を勝ち取ったことだ。ウクライナはこの判決を巧みに利用し、他国にロシアへの制裁を科すよう促し、自国の防衛体制を強化した。ウクライナ政府や同国の国営企業は、ロシアによる資産の接収や条約違反を巡る仲裁裁判でも勝訴している。今後数十年にわたって続くとみられるこうした訴訟は、ロシアの戦費を押し上げることになるだろう。

ナフトガスがモルチャノフ号を差し押さえる選択をしたことは、ノルウェー側にとっても好都合だった。北極圏に位置する人口3000人のスバルバル諸島は、世界最北端の人類の居住地の1つだ。同諸島の主権はノルウェーにあり、同国が管理しているが、1920年に結ばれたスバルバル条約の締約国は、現地での経済活動が認められている。ノルウェー政府はスバルバル諸島への上陸にビザ(査証)を求めていない。同諸島は長年にわたり、ある種の理想郷と見なされ、近隣のロシアをはじめ世界各国から集まった人々がスノーモービルを楽しんだり、チェスに興じたりしていた。

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翻訳・編集=安藤清香

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