利用者をアプリから離れさせることを成功とする
関係を重視する考えは、ヒンジのデータ利用にも表れている。同社は、集めたデータを、人々をアプリ内にとどめるためではなく、交際相手とのつながりを生み出すために使う。
デートアプリという分野は、スワイプを繰り返させて人々をつなぎ留める「スロットマシン」のような仕組みになっている。これに対してヒンジが成功の指標にするのは、アプリ内での滞在時間を延ばすことではない。利用者がアプリを離れ、実際に良いデートへ進めたかどうかである。同社が掲げる言葉で言えば、ヒンジは「削除されることを前提に設計された」アプリだ。
何を成功の指標にするかでサービスの設計も変わる
過去に「FROM THE CULTURE」に出演したハーバード・ビジネス・スクール教授のフランシス・フライなら、この考え方を「目的関数」と呼ぶだろう。ここでいう目的関数とは、何を最優先の目標に置くかによって、仕組みが生み出す結果が変わるという考え方だ。
商売のために利用者をつなぎ留め、利用を続けさせることを最優先にすれば、依存を生む仕組みが出来上がる。人がより良く生きられることを最優先にすれば、より意味のあるサービスを作れる。
ヒンジは、「人々のつながりを支える」という会社の信念に沿い、交際関係を築けるよう集計データを活用する。事業面では、競合アプリが市場で苦戦するのに対し、ヒンジは成長している。結局、誠実な関係を重視することは、事業にもプラスになるのかもしれない。
関係重視の企業文化は会社の規模を超えて広げられる
ここまでの運営は、社員数が少ないヒンジだから可能なのだという反論も考えられる。社員が数百人のヒンジなら実践できても、4万人ほどの大企業では同じような関係重視の運営を続けられないという見方だ。
だが私は、それは難しい仕事を避けるために我々が自分に言い聞かせている「うそ」だと思う。規模を拡大するために人間関係を捨てる必要はない。
行動と信念を人から人へ広げ、組織全体に定着させる
行動や信念が人から人へ伝わり、やがて組織全体の当たり前として定着することで、関係重視の文化は大きな組織にも広がる。
フットボールのフィールドでプレーする11人にも、5万人規模の企業にも、根底では同じ法則が働く。規模ではなく、人間そのものに基づく法則だからだ。状況は違っても、基本的な仕組みは変わらない。
ヒンジのジャントスとヤングが築いたのは、「関係を重視する」という原則で会社全体を動かす仕組みだ。その原則は、製品、データ、採用に加え、10年以上続く2人自身の協働にも及ぶ。これは規模ではなく、信念の問題である。


