デンマーク・コペンハーゲンの体験型美食レストラン「アルケミスト」。最新の「世界のベストレストラン50」では5位に入り、現在100万人以上がウェイティングリストに名を連ねる有名店だ。
店を率いるラスムス・ムンクシェフは、20代前半でデンマーク屈指の5つ星ホテルの料理長となり、デンマークのベストシェフに選ばれた実績を持つ。しかし、ただ美味しい料理を作るだけでなく「社会的に意義のある料理を作りたい」という強い想いから、アルケミストを生み出した。
2019年に現在の場所へ移転して以降、ドーム型の天井に映像を映し出す演出や、目玉を模した料理、フリーズドライにした本物の蝶を用いた一皿など、常識を覆す演出で注目を集めてきた。その背景には、現代社会に対する問題提起がある。
たとえば「目玉」の料理にはスマホによる個人情報の収集や監視社会への警鐘が、「蝶」には人口増加による食料枯渇への危機感と将来の有効なタンパク源としての昆虫食の可能性といったメッセージが込められている。一瞬ドキリとする見た目にすることで印象に残し、食べる人がその問題について考えるきっかけを作ることが彼の狙いである。

今年1月には、世界から約70人のシェフやバーテンダを招いたイベント「コンバージェンス(Convergence)」を主催。そこでデンマークのヤコブ・エンゲル=シュミット文化大臣から「食はアートである」という言葉が出るほど、ムンクシェフは近年、アートと食の関係性を深める活動にも力を注いできた。
そんなアルケミストが今年12月から、毎年5カ月間を創作活動に没頭するために休業することを決めた。日本唯一のメディアとして、公式発表前にムンクシェフへのインタビューを行った。
──アルケミストを毎年5カ月間休業するという決断に至った経緯を教えてください。
オープン以来、私は毎晩店に立ち、一人ひとりのお客様に挨拶をして見送り、私たちの「体験」を届けてきました。優秀なチームがいるので私が不在でも料理の質を保つことは可能ですが、私がいな時は店を閉めます。それは私自身がこのアイデアの発案者であり、伝え手であるから。それは私にとって譲れない絶対的な条件なので、その制約の中でやるしかありません。
しかし、海外へ行ってその土地の文化を吸収したいと思っても、今は時間が全くありません。たとえば日本へ行く際、これまでは東京や大阪くらいしか訪れることができませんでした。しかし、日本全体を巡り多様な地域の食文化を深く体験しようと思ったらかなりの時間が必要です。インドの場合も、3週間ほど必要です。だからこそ時間を確保し、通常の営業中にはできなかった深いリサーチや体験をしようと決めたのです。
店の改修ひとつをとってもそうです。これまでは新部屋のインスタレーション施工を次の営業週までに間に合わせるために3日間で仕上げていました。しかしこれからは、3カ月かけて作り込むことができます。時間的な制約で選べなかった新たな可能性を模索できる。世の中には探求すべきことがまだたくさんあり、5カ月間はそのための手段だと考えています。



