──今回の発表を受けて、周囲から「バーンアウトしたのではないか」「アイデアが尽きたのではないか」と勘繰る声も出てくるかもしれません。
毎日現場で働く人から見れば、そう思えるかもしれませんね(笑)。ですが、これは決して燃え尽きたりエネルギーを失ったりしたわけではありません。トータルの仕事量はこれまでと変わりません。変わるのは「毎晩フロアに立ち、12カ月間毎週パフォーマンスを続けなければならない」という構造だけです。
私たちは時間を買い、新しい道を探るために大きな投資をします。「何が起きているんだ?」と疑う人たちには、来年の営業再開時のパフォーマンスを見てもらえれば理解してもらえるはずです。
私が問い直したいのは「ファインダイニングとは何か」そのものです。イノベーションとクリエイティビティの境界線を押し広げるには、まとまった時間が必要なのです。

──先日、世界のベストレストラン50で3位(2024年)だったパリの「テーブル by ブルーノ・ベルジュ」は、閉店してカジュアル店へ路線変更すると発表しました。ファインダイニングの未来をどう見ていますか?
私にとって、ファインダイニングは決して死んでいません。
ただし、「ファインダイニング」の定義は変わる必要があります。高級で洗練された昔ながらのエクスクルーシブな市場は縮小しているかもしれませんが、イノベーションやクリエイティビティへの探求はなくなりません。
今や美味しい料理や上質な食材は世界中で民主化されています。日本を見れば一目瞭然で、手頃な価格のラーメン一杯でも素晴らしい味覚体験ができます。「高級な食材を使い、丁寧なサービスを提供する」だけでは、これからのファインダイニングとして不十分です。
私にとって食とは「コミュニケーションの手段」であり、「物語を伝えるメディア」です。料理そのものを超えた「Xファクター」つまり、未知の感動体験や新しい価値観を提供することが求められています。
──休業期間中、一般向けに“舞台裏ツアー”を実施すると伺いました。
はい。スタッフが案内する「Behind the Scenes(舞台裏)ツアー」を計画しています。アルケミストのクリエイティビティやイノベーションの裏側を、より民主化された形で体験してもらう試みです。
普段は見られないテストキッチンに入り、開発中の試作品を味わったり、コンテンツやストーリーテリングがどう作られているのかマニアックな背景まで見学できます。現在の価格設定や席数のハードルで来店できなかった若い世代や、シェフを目指す学生たちにも手が届くリーズナブルな価格設定にする予定です。
──5カ月の準備期間を経て営業再開したとき、アルケミストはどう進化しているのでしょうか。
「もっと良くなる」というよりは、「もっと意味のあるものになる」と言いたいですね。私自身にとっても、チームにとっても、そしてゲストにとっても、未来の食とダイニングのあり方を提示できるような、これまで以上に大胆で野心的な体験を作り上げます。
「ファインダイニング」という言葉自体が不要になるのかもしれません。しかし、最高峰のイノベーションと表現の場であり続けることには変わりありません。その答えを探すための5カ月間であり、来年戻ってきたときには全く新しい世界をお見せできると確信しています。


