観光客たちとの接触も、懸念すべき問題の一つだ。規制をせずに観光客を受け入れると、大人数の遊泳者が1頭のジンベエザメを取り囲む事態が起きかねない。実際、地域によっては、300人もの人間が1頭を取り囲むことさえある。こうした状況では、ジンベエザメの自由な動きが阻害され、エサの確保に支障が生じるおそれがある。
「サメたちにとって、海は自分たちの家だ。われわれ人間は、サメたちを観察して正しく理解するために、彼らの家に足を踏み入れてきた」とバルチャは語る。「その際には、サメたちに危害を与えたり、自然な行動を阻害したりしないよう、万全を期す必要がある」
ジンベエザメと遭遇した際に、決して行なってはいけない行動の一つが、手で皮膚に触れることだ。人間との接触により、ジンベエザメの皮膚を守る粘液の膜が損なわれ、有害な細菌や寄生虫に感染しやすくなるおそれがあるからだ。
また、触ることでストレスが増大したり、捕食や遊泳といった行動に影響が出るおそれもある。野生動物との遭遇は貴重な体験だが、身体的接触を行なう機会ではないと、バルチャは改めて警告した。
ミライドゥ島周辺では、2025年の観測で9頭のジンベエザメが特定された。その大部分は比較的若く、まだ成熟していない体長4~9mの個体だった。また、ミライドゥ島付近で観察されたジンベエザメの約80%がオスだった。これは、モルディブの他の地域でも確認されるパターンを反映している。
このようにオスの比率が極端に高いのは、生息場所の利用形態の違いに関連しているのではないかと、研究者は考えている。大人のメスや子どもたちは、沖合のより深い海域で多くの時間を過ごしている一方、若いオスは、より浅く、プランクトンが密集しやすい、豊かな沿岸の海域で多く見られるという。
これほど巨大な体を持つにもかかわらず、ジンベエザメの生態は、今でも驚くほど謎が多い。特に、研究者がアクセス可能な、水深の浅い海域でエサを食べる集団ではめったに見かけないメスの生態は、よくわかっていない。そのため、過ごしている場所や繁殖場所、個体群のつながりの実態については、大きな疑問が残ったままだ。
これだけ大きければ、研究しやすい動物だろうと思うかもしれないが、実際はその逆で、写真が価値を持つのも、まさにこれが理由となっている。「ジンベエザメたちと共に時間を過ごしていると、個体ごとの模様や傷跡、行動の特徴に気づき始める」とバルチャは証言する。
ミライドゥ島のリゾート施設で開催されている「海洋生物学者になろう」プログラムなど、この地域を訪れた人たちが個体識別のプロセスに参加する企画もある(ただし、参加できるのは、視界や海の状態が良好な時のみだ)。こうしたプログラムでは、研究者がジンベエザメを撮影する方法や、こうした観察データが最終的に研究データベースに貢献する過程を学ぶことができる。
「何より重要なこととして、この体験を通して、(ジンベエザメを)単なる美しい生き物として見るのではなく、われわれ全員が守る責任を持つ野生動物だという思いを持ってもらえたらと期待している」と、バルチャは語った。
チョコには、これまで生きてきた来歴がある。ラッテヒにも来歴がある。ライース(2009年に特定された有名なジンベエザメの個体)にも来歴があり、研究者が治る過程を見守ってきた重いケガもその一つだ。
「すべての目撃事例が、ジンベエザメと、彼らが生活のよりどころとしている海を守るのに役立つ」と、バルチャは観察の意義を強調している。


