イノベーションに関する最も重要な問いは、「何を付加できるか」ではなく、むしろ「何を取り除くことができるか」であることが多い。
どんなビジネスでも、摩擦はつきまとう。顧客は、フォームへの記入を何度も要求される。従業員は、1つの回答を得るために3つのシステムを探し回らなくてはならない。営業担当者は、会議の準備を手作業で行う。カルテを書く医師は、患者との対話中に自動で得られるはずの情報を手入力するために時間を費やす。マネージャーは、数分で済むような分析の結果を知るのに何日も待たされる。
ほとんどの組織は、仕事の流れを妨げるこのような障害があっても、いつの間にか慣れてしまい、何とかやっていくようになる。しかし、優れたイノベーターは、そうした障害があると気になって仕方がない。彼らは、取るに足らないように見えて、実際には大きな意味を持つ事実を理解している。つまり、不必要な摩擦の一つ一つが、実は価値を生み出すきっかけになる、という事実だ。
今は、AI(人工知能)が登場したことで、やむを得ないと思われていた摩擦を取り除くことがいっそう可能になりつつある。これまでにないほど数多くのツールが開発されており、2026年4月時点の推定では、5000の職種と1万1000以上のタスク全体に関して、一般公開されているAIツールが4万7400件を超えている。
AIブームが起こる前から、SaaSツールはすでに多数出回っていたが、それに加えて、業務用のソフトウェアやツールの領域では現在、実に多くのイノベーションや開発が進んでいる。重要なのは、こうしたツールが、ユーザーの日常業務に存在する摩擦を実際に取り除くことができるか、ということだ。
未解決の摩擦がもたらすリスク
業務の流れを妨げる摩擦を発見したいとき、ツール利用者を悩ますペインポイント(問題点や課題)をただ特定するだけでは不十分だ。そこからさらに深く掘り下げて、例えば、時間を要するタスク、繰り返さなくてはならないタスク、面倒なタスクが何なのかを見つけ出さなくてはならない。今どきのAIツールの多くがそうであるように、重視すべきは、反復作業の自動化や作業の迅速化だ。
これには、はっきりとした理由がある。摩擦はさまざまな形で生じるが、そのすべては最終的に、一つの包括的なカテゴリーに収束する。根本的に言えば、本来ならもっと簡単あるいは迅速にできる作業の足を引っ張っている物事はみな、摩擦と言えるのだ。
仕事を進めにくくしている摩擦は、想像以上にどんどん蓄積していく。Gartnerの調査によれば、「摩擦がある状態で働かなければならない従業員は、その摩擦を回避するために、日常業務に1日当たり平均1.9時間を余分に費やしている」。従業員1万人を擁する企業であれば、本来なら不要なはずの手間のために、年間310万時間も無駄にしていることになる。
ブルーカラー業界は、この問題をよく理解している。屋根工事業界の年次ベンチマーク報告書「Peak Performance 2026」によると、高収益を上げる屋根工事会社のうち、顧客管理(CRM)ツールを導入している割合は80%に上る一方、プロジェクト管理ツールを導入している割合はわずか29%だった。
つまり、業務の初期段階については態勢が整っていても、それから先については、電話すべきであることを社員が覚えていられるかが頼り、というわけだ。こうしたギャップは、損益計算書には表れないが、実害を生んでいる。
もちろん、摩擦を取り除いてくれるツールが必要な理由は、生産性の損失だけではない。業務上の摩擦が増えすぎれば、従業員たちの全般的な勤労体験が損なわれ、ストレスが増したり、モチベーションが低下したりする恐れがある。その結果、生産性が落ちたり、転職したりすることもあるだろう。



