優先すべきは「摩擦の排除」
摩擦を放置しておけば、マイナスの影響が出かねない。だからこそ多くのツール開発者は、摩擦を取り除くことを最優先にしている。
そのためには、多層的なアプローチが必要となってくる場合が多い。ツールが解決しなければならない摩擦がそもそも存在するわけだが、場合によっては、開発したツール自体が、別の摩擦を生じさせる可能性もある。革新性にあふれる開発者であれば、この点を意識し、ソフトウェアを開発する際にはできるだけ簡単に使えるものになるよう、絶えず模索している。
一例を挙げよう。屋根工事業者向けのAI対応CRMツール「JobNimbus」は2026年8月、住宅関連サービスのプラットフォーム「Angi」との直接統合を発表した。JobNimbusはプレスリリースでこう説明している。
「このたびの統合により、住宅所有者から見積もり依頼が届くと、Angi経由の新規顧客の情報は瞬時に、JobNimbus内に自動で表示されるようになります。これにより業者は、プラットフォームを切り替えたり、データを重複入力したりすることなく、見積もりから、作業日のスケジューリングまでを行うことができます。貴重な時間の節約と、手作業による業務負担の軽減が実現するのです」
この活用事例の場合、見込み客の連絡先情報を手作業で再入力するなどの手間が省ける。そのため業者は、より速やかに見込み客に連絡ができる上、データの手作業入力によるミスも防げる。
顧客の78%は、「見積もり依頼に最初に応じた業者に依頼する」という。そう考えると、こうした類いの摩擦を取り除くことができれば、住宅関連サービス企業の利益に、驚くほど大きな差が出てくる可能性がある。
こうしたイノベーションのプロセスは、用途や対象ユーザーを問わず、どんなツールでも必要だ。ツール開発者はまず、摩擦やペインポイントを特定しなくてはならない。つまり、業務のどの部分であれば、しかるべきソフトウェアを使えば効率化が図れるかを見極める、ということだ。その上で、問題をさらに掘り下げ、ツールによって不要なステップを減らしたり、プロセスを迅速化したりできる実践的な方法は何かを特定していくのだ。
ユーザーを念頭に置いて設計する
摩擦を取り除くツールの開発にあたっては、ツールそのものが新たな摩擦を生まないよう配慮することも欠かせない。2025年にSaaS企業WalkMe(ウォークミー)が発表した報告書によると、企業は平均で625のアプリケーションを使用しているが、そうしたテクノロジーを十分に生かせないことで生じる平均損失額は1億4000万ドル(約220億円)に上るという。
企業がテクノロジーに投じる金額が増え続けるなかで、イノベーションを目指す開発者にとっては、対象利用者のニーズとスキルレベルを十分に把握・考慮しているかが重要だ。
技術を使いこなすスキルは、人によってまちまちだ。必要以上に複雑で手ごわいツールを開発してしまうと、使ってくれそうなユーザーであっても、試す前から尻込みしてしまうかもしれない。また、統合が不十分な企業環境でツールばかりが増えてしまうと、本来なら役立つツールが埋もれてしまいかねない。
断片化したツール群に、新たなツールが加わると、摩擦を取り除くどころか増えてしまうことも少なくない。AIツールならなおのこと、その傾向が強い。だからこそ開発者は、問題を解決する革新的なツールを開発したとして満足せずに、さらに踏み込まなくてはならない。開発者は、平均的なユーザー(開発者レベルの知識を持たずにツールを利用する人たち)の使用感はどうなのかを検討する必要もある。
タスクを扱いやすくしようとして開発されるどんなツールであれ、新規ユーザーが使い方を覚えるまでの学習曲線は存在するだろう。しかし、短い時間で効率よく学べるようにしなくてはならない。ツールそのものが摩擦の原因にならないようにするには、できるだけシンプルで使いやすいツールを開発するしかない。


