Forbes JAPAN 2026年11月号は、文化の力で世界を駆ける「カルチャープレナー」たちを特集。文化やクリエイティブ領域の活動によって新ビジネスを展開し、豊かな世界を実現しようと試みる文化起業家を30人選出する企画で、今回で4回目となる。今年注目したのは、優れた作品や商品を生み出すだけでなく、流通や人材育成、地域との関係まで含め、文化が続いていくための基盤をつくろうとする実践だ。アニメやゲーム、工芸、食、地域開発など領域を越えて、文化を次の創造へと循環させる挑戦を紹介する。
世界的ヒットを生むMAPPAは、なぜ「つくる」だけのスタジオを脱したのか。アニメを持続可能な産業にするため、MAPPAが挑む新たな「循環」とは。
東京・中野。多くのアニメ制作会社が点在し、中野ブロードウェイを中心に漫画やアニメ、サブカルチャーが根づく。その街並みを一望できるビルに、MAPPAの本社はある。
『呪術廻戦』『チェンソーマン』『進撃の巨人 The Final Season』など、世界的な人気作のTVアニメや劇場版を立て続けに手がけ、2021年12月公開の『劇場版呪術廻戦 0』は全世界興行収入265億円の大ヒットを記録。TVアニメ『チェンソーマン』も200以上の国と地域で配信されるなど、作品は国境を越えて広がっている。11年の設立から15年で、従業員500人以上、約10の制作ラインを擁する組織へと成長し、東京のほか仙台、大阪にも制作拠点を構える。国内のアニメ制作会社の半数以上が従業員20人以下というなか、その規模は際立つ。
従来、アニメの制作会社が担ってきたのは、製作委員会などから請け負い、作品を「つくる」ことだ。しかしMAPPAは自ら出資し、権利をもち、「届ける」領域まで担うことで、得た利益を次のクリエイティブへ投じる「循環」をつくろうとしている。新たなアニメスタジオ経営の先駆者だ。
「僕たちはまだ、そのスタート地点に立ったばかりです」
そう語るのは、代表取締役社長の大塚学。なぜMAPPAは従来のアニメスタジオの枠を超え、「届ける」領域へと踏み出したのか。
その原点は、MAPPAがまだ設立間もない後発スタジオだったころにさかのぼる。プロデューサー丸山正雄が立ち上げたMAPPAに、大塚が参画したのは2011年。当時はブランドも資金も乏しく、仕事を選べる立場ではなかった。まずはスタジオとして存在感を示さなければならない。そこで14年に、『残響のテロル』『神撃のバハムート GENESIS』『牙狼〈GARO〉-炎の刻印-』というタイプの異なる深夜アニメの3作品を同時期に手がけた。この経験が転機となった。
「当時は、とにかく良い作品をつくろう と意気込んでいました。それぞれ違う分野で強い作品をつくって、まずはブランドを確立しようと考えたんです」
作品のクオリティには手応えがあった。だが、期待したほどのヒットにはつながらなかった。大塚は当時をこう振り返る。
「いい作品をつくって、まずはスタジオとして認めてもらいたいという思いがありました。その意味では、3本とも当時の僕たちの勢いや青さがよく出ていて、一定の手応えがありました。一方で、その手応えと作品の広がり方は必ずしも一致しませんでした。そこで、『良い作品をつくること』と『多くのお客さんに届けること』はシンプルに一緒くたに考えられる課題ではないと思いました」



