すべての企業が成長を追求するなか、各社は新たな市場へと進出し、新規顧客を追い求め、10年前には考えられなかったほどのスピードで意思決定を下している。AIの活用によってこうした意思決定は迅速化したものの、同時にリスクも高まっている。
財務チームがベトナムのバイヤーと取引すべきかを評価するのに役立つAI搭載テクノロジーは、その6カ月後、なぜその請求書が未払いのままなのかを役員会で釈明する羽目に陥らせるテクノロジーでもあるのだ。コファス(Coface)の2026年米国リスク調査によると、米国の財務およびリスク担当幹部の80%が、与信や市場に関する意思決定においてAI主導のインサイトを最優先事項に挙げている一方で、そのベースとなるデータの信頼性が十分であり、行動に移せると回答した割合はわずか31%にとどまっている。
現在、優位に立っている企業は、新市場への進出が無謀な賭けである必要はないと理解している。バイヤーレベルの適切なデータと、エクスポージャーに対する適切な保護策を講じることで、競合他社よりも迅速に行動し、管理不能なリスクを減らしているのだ。その一方で、いまだに様子見を続けている企業は後れを取っている。
AIは迅速に動くことができるが、その確実性は依拠するデータ次第である。
筆者の会社であるプロスパー・インサイト&アナリティクス(Prosper Insights & Analytics)が最近実施した調査では、エージェンティックAI(自律型AI)について、従業員の19%が「良いアイデアだ」と考えているのに対し、経営幹部や事業主では34%に上ることが分かった。
しかし、AIツールの信頼性は、そこに入力されるデータ次第だ。実際、同じ経営幹部の40%が、AIが誤った情報を提供することを最大の懸念事項に挙げている。ビジネスリーダーたちがAIの可能性を理解しつつも、最終的な出力の信頼性を左右するのはベースとなるデータであることを熟知しているのは明らかだ。
そのトレードオフに、気候テクノロジー企業であるクライマビジョン(Climavision)のCFO、ジェフ・ウッズはまさにリアルタイムで直面している。「当社の成長は複数の分野で加速しており、AIを活用することで、あらゆる意思決定において人員を増やすことなく、そのスピードに対応できている。当社にとって正確性と品質の検証は極めて重要であり、AIの出力結果に確信を持てなければならない。私たちは常に信頼性のレベルをどのように高めるか、挑戦を続けている」とウッズは語る。
この状況は、新たな領域に進出する財務チームにとって課題となる。東南アジアに初めて進出する企業は、現地のバイヤーに関する社内の支払い履歴を持っていない。そのため、AIツールがベトナムやタイの新たな見込み客を評価する際、外部情報を活用することはできる。しかし、出力される結果の品質は、データの深さ、関連性、適時性に加え、それが市場全体の現実を捉えているか、あるいは特定のバイヤーの状況を反映しているかによって左右される。
クリスティーナ・モンテス・デ・オカ(コファス・ノースアメリカ〈Coface North America〉CEO)は、20年にわたり企業の新しい市場への進出と、確信を持った事業構築を支援してきた。「意思決定の質は、その背後にある情報の質で決まる。企業が必要としているのは、モデルに多くのデータがあるという安心感ではなく、顧客、市場、そしてその瞬間に十分に特化した『適切なデータ』があるという確信だ。それがあって初めて、役員会で自信を持って支持できる決断を下すことができる」と彼女は述べている。
競合他社もまた、進出すべき新たな市場を狙っている。
多くの財務リーダーにとって、与信判断における不確実性は自動的に「却下」を意味していた。見慣れない市場であったり、バイヤーの実績がなかったりする場合、前に進む確信を得るために必要なデータを追い求めるよりも、見送る方が容易だったからだ。しかし、そうした計算式は変わりつつある。現在優位に立っているのは、行動を起こすのに十分な速さでその情報を入手する方法を見出した企業だ。
カントリーリスクへの懸念からブラジルへの進出を何年も避けてきた企業は、サンパウロを拠点とするディストリビューターを見送ってきたかもしれない。そのディストリビューターは、10年間にわたって優れた支払い実績を持ち、その企業が安全だと考えている市場の既存の取引先よりも強固な貸借対照表(バランスシート)を有していたかもしれないのだ。その進出見送りという決定が「損失」として表に出ることはないが、同じバイヤーに「イエス」と言った競合他社は、その企業がまだ検討を重ねている市場で、すでに数カ月分の経験を積んでいることになる。
モンテス・デ・オカは、意思決定に確信を持つためには2つのタイプのデータが不可欠だと言う。「カントリーリスクは、その企業がどこで活動しているかを示し、バイヤーレベルのインテリジェンスは、その企業と取引すべきか、またどのような条件で取引すべきかを教えてくれる。最適なリスク判断にはその両方が必要だ。市場全体のリスクが高くても、その市場のなかには強固なバランスシート、確立された支払い履歴、回復力のあるビジネスモデルを持つ企業が存在する。逆に、伝統的に低リスクとされる市場で活動している企業であっても、自動的に与信が良好であるとは限らない」
製造業、小売業、エレクトロニクスなど、あらゆる分野の企業がビジネスリスクのプロファイルをより深く理解できるよう、コファス・ビジネスインフォメーション(Coface Business Information)は200以上の市場にわたる特定企業の与信レポートとリスクスコアを提供している。
適切なデータと適切な保護が、リスクの高い市場を成長の機会に変える。
すべてのデータがバイヤーの信頼性を示していても、不払いは発生し得る。そこで登場するのが取引信用保険だ。これは、バイヤーが債務不履行に陥った場合に請求書をカバーする保険であり、企業が信頼だけを頼りに新たな取引に全価値を賭けるのを防いでくれる。モンテス・デ・オカは、今日の企業がこの種の保険を単なるリスク管理ツールとしてだけでなく、成長を促進するための手段として利用していると指摘する。見慣れない市場での大規模な新規顧客への与信を承認することのない財務チームでも、下振れリスクが限定されているのであれば、同じ顧客への与信を承認することが多いのだ。
企業は取るべきリスクについてより慎重になっており、バイヤーレベルのインテリジェンスを組み合わせて初期の判断を下し、請求書が危険にさらされる前に問題を捉える継続的なモニタリングを行い、判断が誤っていた場合のエクスポージャーを制限するために保険を活用している。
「コファスは、より大きなリスクを取ることを推奨しているのではない。よりスマートで、より確信に満ちた成長を可能にしているのだ」とモンテス・デ・オカは語る。
これをいち早く理解した企業は、取引関係を確実なものにし、市場での経験を積み、四半期ごとにさらなる前進を遂げている。AIツールに対して完璧な確信が持てるようになるのをいまだに待っている企業は、競合他社に先を越されることになる。



