病原菌の一酸化窒素経路をRNA干渉で狙う
マの研究によると、TR4は感染時に一酸化窒素を生成し、植物の免疫防御を弱めることで強い病原性を発揮する。論文では、一酸化窒素を作る経路に関わる遺伝子を壊すと病原性が低下することも示されており、この経路はTR4を抑える標的になり得る。
マは「一酸化窒素経路の遺伝子を1つずつ欠損させると、病原性は約50%低下します。ただ、個々の遺伝子を取り除くより、経路全体をまとめて制御する上流の転写調節を止める方が効果的かもしれません」と述べる。
有力な方法の1つがRNA干渉(RNAi)だ。RNAiは、RNAを使って特定の遺伝子の働きを抑える、細胞に備わった仕組みである。病原菌の重要な遺伝子を標的とするRNA配列をバナナ自身に作らせれば、感染時にTR4の遺伝子の働きを抑えられる可能性がある。植物をいわば「RNAiの工場」として働かせる発想だ。この方法は、SmartStax PROトウモロコシで根を食害する害虫の防除にすでに使われている。パナマ病にも応用できる可能性があり、マの研究チームは2026年9月時点で開発を進める共同研究先を探している。
遺伝子編集でバナナ自身にTR4耐性を持たせる
病原菌自体を弱らせるのと並行し、バナナ側をTR4に感染しにくくする研究も進む。
TropicはRNAサイレンシングをTR4へ向け直す
Tropic Biosciencesは、遺伝子編集とRNA干渉を組み合わせたGEiGSでTR4耐性バナナを開発している。GEiGSは「Gene Editing-induced Gene Silencing」の略で、遺伝子編集によって遺伝子の働きを抑える技術だ。バナナ自身がもともと持つRNAサイレンシングの標的をTR4へ向け直す。ゲノムのうちタンパク質の設計図を直接記さない非コード領域へ小さな編集を加え、外来遺伝子を新たに挿入せずにTR4の遺伝子を抑える。GEiGSは、遺伝子編集とRNA干渉を組み合わせるための基盤技術である。
※注:RNAサイレンシングとは、小さなRNAを介して特定の遺伝子の働きを抑える仕組み。RNA干渉(RNAi)はRNAサイレンシングの代表例で、植物ではウイルスなど外部から侵入した遺伝子に由来するRNAを認識し、分解して働きを抑える防御にも利用される
Tropicの最高経営責任者(CEO)ギラド・ガーションは「バナナは種子を使わず同じ系統の株を増やす無性繁殖が中心で、近年までバイオ技術の利用もごく限られていました。当社はそこに機会を見いだしました。CRISPRやGEiGSなどの高度な遺伝子編集技術なら、従来の育種ではできない方法で、生産者が直面する重大な問題に対応できます」と語る。
Tropicは2025年、TR4耐性バナナの開発を大きく前進させた。同年12月には、増殖用の親株を育てる母株農園を整備するため苗を出荷した。商用導入は2027年から始める計画だ。
ガーションは「Tropicはこの問題の解決策を提供できる独自の立場にあります。業界と緊密に連携しており、私たちの取り組みへの期待は大きいです」と述べる。
Eloは近縁品種の自然耐性をキャベンディッシュへ移す
耐病性バナナを開発する別の企業がElo Life Systemsだ。同社はドールとの提携でバナナ開発を始めた後、2021年にPrecision BioSciencesから分社化した。
Eloは複数のバナナ品種のゲノムを比較し、キャベンディッシュ種の近縁品種に自然に備わるTR4耐性を手掛かりに、キャベンディッシュを病気に強くする遺伝子標的を探している。特定した耐性の仕組みをキャベンディッシュ種へ取り込むのが同社の戦略だ。2023年4月には、ドールがEloの遺伝子編集バナナを中米の農園に植え、圃場試験を始めた。
品種を増やし、単一栽培への依存を減らす
Eloの取り組みは、バナナ産業が抱える根本問題である単一栽培にもつながる。バナナには1000を超える種類があるのに、世界の輸出バナナの99%超はキャベンディッシュ種が占める。しかもキャベンディッシュ種は無性繁殖で増やされるため、遺伝的にほぼ同じ株が広い地域で栽培されている。TR4が各地の農園を同じように襲えるのは、この遺伝的な均一性が大きな理由だ。
マは「野生には多様な品種がありますが、商業生産は1品種に大きく依存しています。遺伝的多様性を高めることは、産業全体の脆弱性を抑える方法の1つです」と説明する。
コスタリカは2026年9月時点でTR4が確認されておらず、将来の侵入に備えて商業生産向け代替品種の評価を進めている。クイーンズランド工科大学は、野生の近縁種で自然に進化した耐性遺伝子をキャベンディッシュ種へ導入し、遺伝子組み換えバナナQCAV-4を開発した。QCAV-4は強い耐性を示し、2024年にオーストラリアで商業栽培が承認された。
バナナを救う方法は1つに絞れないのかもしれない。世界で広く食べられる果物を守るには、商業栽培する品種の遺伝的多様性を高めること、バナナ自体に耐病性を持たせること、Fusariumの弱点を狙うことを組み合わせる必要があるだろう。複数の手段が並行して開発されており、バナナの危機を乗り越えられれば、バイオテクノロジーにとって最大級の成功例になる可能性がある。


