バイオ

2026.09.19 18:00

世界のバナナ産業に迫る存亡の危機、遺伝子編集と品種の多様化で対抗

熱帯レース4(TR4)によるフザリウム萎凋病の被害を受けたバナナ。emarys / Getty Images

熱帯レース4(TR4)によるフザリウム萎凋病の被害を受けたバナナ。emarys / Getty Images

世界の輸出バナナ市場をほぼ独占するキャベンディッシュ種が、土壌中の真菌が引き起こすパナマ病の脅威にさらされている。2026年9月時点でTR4と呼ばれる病原菌を農地から根絶できる有効な防除法はなく、感染した土壌では長期にわたり栽培が難しくなる。研究機関やバイオ企業は、病原菌の遺伝子を抑えるRNA干渉、バナナ自体の遺伝子編集、品種多様化を並行して進めており、一部は2027年の商用導入を計画している。

パナマ病は主力品種キャベンディッシュにも広がった

世界で最も多く消費される果物とされるバナナが、将来スーパーの棚から姿を消したらどうなるだろうか。これはSFの話ではなく、世界各地の生産者が直面する現実の脅威だ。アジアから南米まで、土壌中に生息する真菌Fusarium oxysporumが引き起こすパナマ病(バナナのフザリウム萎凋病)でバナナが枯れている。2026年9月時点で、TR4を土壌から取り除く有効な方法は確立されていない。

同じ危機は過去にもあった。20世紀半ばまで商業生産の中心だったのは、現在のキャベンディッシュ種ではなくグロス・ミシェル種だった。年配の世代には記憶に残っているかもしれないこの品種は、現在のバナナより甘く、香りも強かったとされる。その特徴的な香りが人工バナナ香料の着想源になったともいわれ、現在のバナナとは風味がかなり違うと感じる人も多いだろう。1950年代にレース1と呼ばれるフザリウム病原菌で商業栽培が壊滅し、生産者はレース1に耐性を持つキャベンディッシュ種へ切り替えた。

キャベンディッシュ種も安全ではなかった。1968年、台湾でフザリウム萎凋病への感染が初めて報告され、2000年代初めまでにオーストラリアにも広がった。感染地域はその後アフリカへ拡大し、2019年ごろには中南米に到達した。1950年代の病原菌とは系統が異なり、現在の世界的流行を引き起こしているのは熱帯レース4(TR4)だ。TR4はレース1より強い病原性を持つ。

TR4は土壌に数十年残り、薬剤で防ぎにくい

TR4は、感染が広がった先でバナナを次々に枯らす「完璧な殺し屋」とでもいうべき病原体だ。バナナの根から侵入して内部の維管束へ広がるため、殺菌剤で防除するのは極めて難しい。真菌の胞子は土壌中で数十年生き残ることがあり、感染農地からの根絶もほぼ不可能とされる。

「この病原体を抑える手段は多くありません」。Fusarium属の真菌病原体を研究するマサチューセッツ大学アマースト校の生化学・分子生物学教授イジュン・マはそう話す。マの研究は、1950年代の流行を引き起こしたレース1とTR4の違いを特定するのに役立っており、現在の流行を抑える手掛かりにつながる可能性がある。

同じ遺伝情報を持つ株への依存が被害を広げる

TR4は、レース1が徐々に変化して生まれた病原菌ではない。ゲノム解析では、キャベンディッシュ種に感染するTR4はレース1と異なる進化的起源を持ち、病原性に関わる付加遺伝子を備えることが示されている。

問題を大きくしているのが、キャベンディッシュ種の増やし方だ。種子で増やすのではなく、親株とほぼ同じ遺伝情報を持つ株を無性繁殖で増やすため、農園内では遺伝的に非常によく似た株が並ぶ。ある株へ効率よく感染できるTR4は、同じ性質を持つ多数の株にも感染しやすい。世界の輸出バナナの99%超をキャベンディッシュ種が占めるため、この遺伝的な均一性が被害を世界規模へ広げる弱点になる。

マは「TR4と闘うのは非常に困難です。病原性が強く、急速に広がります。バナナが単一栽培であるため、世界中の農園が危険にさらされています」と説明する。

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