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2015.12.11

BRICSの終焉

Handout / gettyimages

11月初め、ゴールドマンサックスはBRICファンドを終了した。 BRICの略称は、9年前、当時チーフ・エコノミストであったジム・オニールが生んだものである。このゴールドマンサックスのファンドは近年のパフォーマンスが悪く、より広範囲の新興市場国ファンドに繰り入れられたのであった。これは、投資テーマとしてのBRICsの終わりを意味するのだろうか。

新興市場国の見通しについてのインタビュー・シリーズの第1弾として、モルガン・スタンレー インベストメント・マネジメントで新興市場国部門ヘッドのルチア・シャルマに聞いた。同氏は、BRICSは馬鹿げた考え方だと長年主張し続けてきている。

2012年にBRICsは破綻すると書かれました。3年後、ご自身の主張が正しかったと思われますか。
ーはい、そう思っています。略語になっているからクールだといって、ある国に対する投資を煽るマーケット手法は、終わりを迎えました。10年間経済が好調だった後、これらの新興国があまりに持ち上げられ、抱えている問題が無視されていることを懸念していました。それらの懸念は正しかったと証明されました。

新興市場国は、ここ数年間ずっと市場の圧力を受けてきました。現在の水準は、妥当でしょうか。
ー状況は常に変わりますし、一定のものはありません。多くの人が、いつが底か見極めようとしています。しかしながら、それは問題の本質が分かっていないのです。これは異なる方向に向かっている異なる国々からなるグループであって、その構成国は均質ではないのです。

あるアセット・クラス全体について、何が起こるか考えることが好まれています。共通点もあるので、そのアプローチにはメリットもあります。例えば、多くの新興市場国は、中国に依存していたり、一次産品の輸出国であることなどです。

ただし新興市場国については、やや単純過ぎる見方が今だになされています。新興市場国は、現在ではグローバル経済の40%を占め、発展段階の異なるレベルにある様々な国々を含んでいます。一人当たりの所得が高い韓国や台湾の成長を牽引しているものは、インドやナイジェリアの成長を牽引しているものとは大きく異なります。新興市場国を均質なものとして議論するのではなく、個々の国々のストーリーにもっと注意を払うべきです。

おっしゃる通りだとして、どの国の市場が良い状態にあるとお考えですか。
ー東ヨーロッパ の幾つかの国、ポーランド、チェコ共和国、ルーマニアなどはファンダメンタルズが良好だと考えています。これらの国々は過去10年間債務問題に取り組み、バランス・シートを調整し、経常収支赤字も現在では対処可能なレベルになり、通貨も非常に下がりましたが、過去数年間は西ヨーロッパの成長に問題があったためにその影響を受けていました。しかし、西ヨーロッパが安定するか、ひょっとすると再び成長する兆しを見せていますので、これらの国々もその恩恵を受けるはずです。

東南アジアではフィリピン、そしておそらくインドネシアは概ね良好だと思います。インドは、いつも様々な要素が混在している状態です。これは、インドが多様で大きな市場であるからです。ただし、モディ首相の改革の進捗については、失望しているとの声もあるようです。それでも、経済成長のスピードはまずまずです。成長のための多くの機会があります。

インドは、主要な輸出国の中では、一次産品については主要な輸出国ではなく、輸入国であることが目を引きます。ただしそれにもかかわらず、新興市場国全てが投資家からは厳しい目で見られています。

実際には、国ごとに異なる見方をされています。ただ、それはどのくらいの期間についてみるかによります。少なくとも5年間、つまり新興市場国の下降が始まった2011年から見てみると、大きな違いがあります。フィリピンなどのように市場が倍増した国もあれば、ロシアやブラジルのように、ドルベースでは市場が半分以下になった国もあります。日々の動きには多くの相関があるので、短期的にみると何もかも一緒に動いているように見えます。しかしながら時間の枠を広げてみると、この10年間においては、異なる動きが顕著になっていることが分かります。

BRICSがまやかしであり、投資手法としては望ましくないとすれば、どのように投資したらよいでしょうか。
ー新興市場国を均質な存在としてトレーディングするのではなく、個別の国に焦点をあて、しかも適切な国を選んでいるファンド・マネージアーに注目すべきでしょう。全体としてみれば、アクティブ・ポートフォリオ運用が比較的好成績でしたが、これはファンド・マネージャーが個別のストーリーや株に着目していることも一因です。新興市場国に対して、パッシブ運用はいけません。インデックスを買うというのは、新興市場国に関しては間違ったやり方です。
依然として多くの資金がインデックス運用されています。ただそれは、中身が均質でないアセット・クラスなのです。それがポイントです。

新興市場国についての関心の多くは、中国に向けられています。具体的には、中国の経済モデル、成長見通し、株式市場です。どうご覧になっていますか。
ー中国に関する過剰な成長期待は明らかに収まっており、現在では、より現実的なものになっていますが、それでも、まだ少し高すぎるように思われます。幾つかの理由があります。

中国政府が発表している現在の成長率については、信じている人はいないと思います。政府発表の7%よりも、2、3%低いに違いありません。
しかしながら、4、5%の成長率であっても、中国にとっては大きな課題があります。

まず、中国の債務水準が依然として増加しており、経済成長率の2倍のベースで伸びているということです。これは、中国にとってこの10年間大きな問題です。急成長期の間は、問題ではありませんでした。そして、人口構成に関するこれまでの経験では、労働年齢人口が減っている国が6%成長をするのは、とても困難であることが示されています。中国における労働年齢人口は、減少に転じましたので、依然として期待が高すぎます。4-5パーセントが、基本ケースですが、ベスト・ケースかもしれません。

2年前に、新興市場国が、FRBの金利引き上げの見通しというだけで、大きな影響を受けました。市場は既にFRBの金利引き上げを完全に織り込んだのでしょうか、それとも、依然として、新興市場国は影響を受け易いのでしょうか。
ー2年前のtaper tantrum(金融緩和の段階的な縮小の見通しに対して、市場が起こした癇癪)の時に比べれば、大きな違いは多くの国々で経常収支赤字が大幅に減少しているということです。例えばインドとインドネシアは、はるかに影響を受けにくくなっています。もしFRBが予想よりも大幅に引き上げれば影響が見られる可能性がありますが、状況が変わっているので2、3年前に比較すると、かなり軽微に留まります。

また、新興市場国の通貨が大きく下落しました。メキシコ、南アフリカ、フィリピン、東ヨーロッパ諸国などについては、通貨は割安だと思われます。これらの国々では、対外収支が現在は改善しています。

新興市場国と関わるには、新興市場国でのビジネスが多い先進国に投資するのがベストであるとの考え方もありますが、どう思われますか。
ー私は依然として、新興市場国に投資するには、個別の国毎に投資を行うのがベストだと考えています。何故なら、多国籍企業であってもすこし手を広げ過ぎているからです。多国籍企業は、あるテーマに基づいて投資を行うのです。

個別国に投資するよりも、新興市場国のテーマやセクターに投資をする方が良いと考える人もいます。例えば、シンガポールのソブリン・ファンドであるTemasek(テマセク)は、台頭する中間層の理論に基づいて投資しています。そのような観点からは、突出した特定のセクターがあるでしょうか。
将来有望なセクターが、幾つかあります。例えば、医療については先進国について語られることが多いですが、新興市場国全体で高齢化が進んでいることを考えれば、それなりに有望です。

多くの東アジア諸国においては、人口問題が逆風になっています。ただし繰り返しになりますが、これらのテーマはそれほど単純ではないのです。銀行分野を見ても、銀行が非常に普及している国がある一方で、殆ど普及していない国もあります。インドでは、公的銀行と民間銀行では将来展望に大きな違いがあります。ですからテーマがあるのは事実ですが、何を見るかによってそれらを精査しなければならないのです。

編集 = Forbes JAPAN 編集部

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