イランにおける紛争の再燃は、現代を定義するものがあるとすれば、それは不確実性であることを強く思い出させる。新型コロナウイルス感染症、ウクライナ、保護主義と貿易障壁の復活、そして中東での紛争を経て、今や非日常が新たな日常(ニューノーマル)となっている。
この水準の混乱の中で事業をうまくかじ取りすることは難題だが、経営者はそれに慣れていく必要がある。決済は、地政学的および経済的な不確実性を乗り越える際、企業が活用できる極めて重要でありながら見落とされがちな手段である。
信頼しているサプライヤーからの輸入品に突然関税が課されたり、紛争によって輸送ルートの変更を余儀なくされたりした際、新たな市場やサプライヤーへと迅速に舵を切れるかどうかが極めて重要となる。同様に、原油価格のショックによってある通貨が下落し、別の通貨が上昇している際、それらを利用して購買力を高めたり、為替変動の不利益を被るのを回避したりできるかどうかも重要だ。
これは利益率が低い中小企業(SME)にとって、特に重要な課題である。では、中小企業は最近の混乱にどのように対応してきたのだろうか。また、その影響を最小限に抑えるためにどのような戦略を適用できるのだろうか。
細部に注意を払う
これに対する答えを見出すため、筆者のCaxtonのチームは、英国とアイルランドの1000社以上の中小企業の顧客による決済データを分析した。その目的は、企業のリーダーたちがどのように適応してきたかを理解し、決済パターンに変化が生じているかどうかを確認することであった。
分析結果によると、一部の企業は適応を進め、地政学的な混乱に応じて決済をシフトさせている。しかし、多くの企業はまだこのような対策を講じておらず、自らを脆弱な立場に置いたままにしていることも浮き彫りになった。
世界的な出来事が中小企業やより広範な経済に与える影響を示す一例として、我々の分析では、2月末にホルムズ海峡が初めて封鎖された際、我々が提携する企業の決済額が、どの市場にあるかにかかわらず、全体で36%という驚くべき減少を記録したことが明らかになった。これは一時的な落ち込みにすぎず、翌週には決済額が急回復したものの、こうした出来事が貿易に与え得る重大な影響を物語っている。
我々の分析はまた、中小企業の経営者がビジネスの混乱を予期してどのように行動を変化させるかも明らかにしている。特に、データによると、不確実性が高まると週の早い段階で決済が行われる傾向がある。イラン紛争中に対立が激化した時期には、通常は41%未満であるのに対し、全決済のほぼ半数が月曜日に実行された。
これは、地政学的混乱が中小企業経営者にもたらし得る切迫感を浮き彫りにしている。これに対応し、経営者はさらなる混乱や外国為替(FX)の急変リスクを軽減するため、できるだけ早く決済を済ませようとする。
また、経営者が関税などの混乱に対応するために新たな市場やサプライチェーンを開拓するなかで、通貨の組み合わせ(通貨ミックス)を多様化させている動きも見られる。我々の調査対象グループにおける米ドルでの支出はわずかな減少(4%)にとどまった一方、日本円での支出はほぼ倍増した。また、南アフリカランドやデンマーククローネでの支出も増加している。
ここから何が言えるのか。1つの市場や通貨に過度にさらされるリスクは近年、鮮明に意識されるようになっており、中小企業の経営者はそれに対応しているのである。
決済と財務管理の重要性
決済と財務管理(トレジャリーマネジメント)は、中小企業の経営者にとって過小評価されがちな手段である。しかし、筆者が話をする中小企業の経営者の間では、キャッシュフローを管理するために決済と財務管理を利用するケースが増えている。為替変動の影響を回避するための為替管理やサプライチェーンの多様化が鍵となる一方で、企業のリーダーたちは業務の効率化やリスク管理のために、ビジネスの他の領域でも決済や財務管理を活用している。
決済に対するこのようなアプローチは、中小企業がサプライチェーンを多様化するだけでなく、サプライヤーとの長期にわたる信頼関係を構築するのにも役立っている。英国メディアのLondon Loves Businessによる最近の報告書は、高額な為替手数料や決済の遅延がサプライヤーとの関係をいかに損ねるかを指摘している。最適なサプライヤーを確保するための競争が激しい世界において、これはビジネスの成否に深刻な影響を与える可能性がある。
決済は、高いパフォーマンスを発揮するグローバルなチームを維持するためにも極めて重要である。為替に目を光らせながら、チームが複数の国や地域にまたがる経費を管理できるよう支援することから、従業員や契約スタッフに予定通り遅滞なく報酬が支払われるようにすることまで、決済はチームを結びつける「接着剤」の役割を果たしている。
小さな変化が大きな影響をもたらす
エネルギー価格のショックや世界的な貿易の混乱といったマクロな課題に直面すると、マクロな解決策を模索するのが自然に思えるかもしれない。そして、新たな市場の開拓や為替戦略の構築など、そうした解決策が有効な場面もある。
決済に注目することは、ビジネスリーダーがより実用的でマクロすぎない、それでいて大きな効果をもたらす解決策を講じることにもつながる。支出が分散しているハイブリッドチームにおいて、一元管理された決済や決済カードを導入することで、管理を維持しながらも現地のチームに権限を与え、最終損益(ボトムライン)に真の影響を与える効率化を実現できる(なお、Caxtonはこのソリューションを提供している)。
決済戦略が極めて重要に
多くの中小企業の経営者にとって、過去12カ月間はさらなる不確実性をもたらし、国際的なサプライチェーンや海外決済に伴うビジネスの脆弱性を露呈させることとなった。
決済額は回復しているものの、予想通り、企業はさらなる混乱に対するヘッジ手段として、他の市場や通貨を模索している。最近の国際的な出来事が示しているのは、不安定化した国際環境において、単一の市場やサプライチェーンに過度に依存することは重大なリスクであるということだ。
多様化が鍵であり、異なる通貨での取引額が増加するなか、中小企業の経営者たちはそれを行動に移している。企業は、これまで見落とされていた決済という手段を活用し、効率化を図るとともにサプライヤーとの関係を強化している。
企業が最近の混乱から学び、次に起こり得る事態を予測するなかで、決済戦略が鍵を握る。決済に対して戦略的なアプローチを取ることは、次のショックが訪れた際、中小企業がより強靭(レジリエント)に対応できることを意味している。



