競争力のある給与は常に重要だが、優秀な社員を引き留めるには報酬だけでは不十分な場合がある。社員は、自身が成長できるか、自分の仕事に価値があるか、マネジャーからどのように扱われているか、そして企業が自分たちのニーズに耳を傾け、柔軟に対応してくれるかにも注目している。
これらに取り組むことで、単に給与を上げるだけでなく、リテンション(人材維持)を強化するための多様な手段を組織に用意できる。ここでは、Forbes Human Resources Councilのメンバーが、社員が組織にとどまり、ともに未来を築くための強力な動機となる戦略を紹介する。
1. 明確で協調的なマネジャーとの関係性を構築する
明確さは思いやりだ。期待される役割やポテンシャル、そして目標達成の障害を取り除くためにマネジャー自身が何を行っているかについて、オープンかつ直接話し合うことが重要だ。「今日、私があなたのためにできることは何か」といったシンプルな問いかけによる対話は、大きな効果をもたらす。 - Brendan Castle, Zscaler
2. キャリア成長と社内異動のパスを構築する
キャリアの成長と社内での流動性(異動の機会)は、昇給単体よりも効果的なリテンション戦略となっている。社員は、組織での未来を描け、新しいスキルを身につける機会があり、意義のある仕事に関わっていると感じられるときに定着する。成長の機会、パーパス(目的意識)、そして強力なリーダーシップが、長期的なエンゲージメントと忠誠心を育む。 - Dana Kellerman, OnPoint Group
3. 社員の全体像をサポートする福利厚生を提供する
先進的な企業は、一律の施策から脱却し、メンタルヘルス、フィナンシャルウェルネス、家族支援、柔軟性、プロフェッショナルの能力開発などを含む包括的な福利厚生を提供している。社員が大切にされ、サポートされ、前向きな組織文化とのつながりを感じられるとき、給与アップだけの場合よりも定着率ははるかに高くなる。現代の市場において、リテンションを左右するのは給与ではなく、全体的な従業員体験(エンプロイー・エクスペリエンス)だ。 - Katya Laviolette, 1Password
4. 社員の貢献を可視化する
自分の貢献について話を聞くだけでなく、実際に肌で感じられるようにすることだ。キャリアマップの提示は今や最低限の条件にすぎない。社員を真にとどまらせるのは、自分が作ったものが実際の人物にリアルタイムで好影響を与えている様子を目にすることだ。私たちの会社では、エンジニア自身が書いたコードで動く車両に、自ら提供するサービスの乗客の隣で同乗させている。昇給の喜びはすぐに薄れるが、自分の仕事が本当に役に立っていると実感した時の記憶は消えない。 - Tom Tang, May Mobility
Forbes Human Resources Councilは、あらゆる業界の人事エグゼクティブを対象とした招待制の組織である。参加資格の確認はこちらから。
5. 社員のフィードバックに対してアクションを起こす
強力なリテンション戦略の一つは、社員の声に対してアクションを起こし、結果をフィードバックすること(ループを閉じること)だ。社員に必要なものを尋ねても、何も変わらなければ意味がない。リーダーが耳を傾け、聞き取った内容を伝え、対応できることは実行し、対応できない理由を説明するとき、社員は自分の声に影響力があることを実感する。給与も重要だが、意見を聞いてもらえる環境こそが信頼を築く。 - Nicole Cable, C3 Health
6. 成長機会をパーソナライズする
リテンションの次のフロンティアは、パーソナライズ(個別化)だ。全員に同じ機会が提供されるからといって、社員が定着するわけではない。自分に適した機会が提供されたときにこそ定着する。AIは、個人の強みや目標、ニーズを大規模に把握する上で役立つが、リーダーが社員一人ひとりに「見守られ、評価され、サポートされている」と感じさせることが、ロイヤリティの獲得につながる。 - Jennifer Rozon, McLean & Company
7. 会社の成功に対するステークを社員に与える
戦略の一つとして、会社に対する既得権益(ステーク)を共有することが挙げられる。特定の目標達成に応じたボーナスであれ、社員が購入できる自社株であれ、社員が「パイの一部」を所有すると、当事者意識(オーナーシップ)を持ち、問題解決や生産性向上のための提案に意欲的になることが、統計によって繰り返し証明されている。このアプローチを採用したCEOたちは、利益を2倍、さらには3倍に増やしただけでなく、活気に満ちた企業文化を築き上げている。 - Tiersa Smith-Hall, Impactful Imprints, Training & Consulting
8. 意図的に従業員体験を設計する
給与は人材を引きつけるかもしれないが、社員がとどまるかどうかを決めるのは「体験」だ。社員は自身の価値が明確であること、リーダーへの信頼、および成長に向けた明確な道筋を求めている。関係性インテリジェンス(Relational Intelligence)に投資し、従業員体験を意図的に設計する組織は、報酬による差別化が難しくなった後も、長期にわたって優秀な人材を引き留めることができる。 - Dominique Perry, Ed.D, Perry & Co.
9. 資格や認定資格の取得に投資する
過小評価されがちだが強力なリテンションの手段として、給与だけでなく、社員の継続的な資格や認定の取得に投資することが挙げられる。次のステップへの挑戦に向けて会社が積極的に支援している姿勢が見えると、社員は自らのキャリアに会社が本気でコミットしていると感じる。そうした信頼関係は、昇給よりもはるかに早く、複利的に強固なものとなる。 - Houman Akhavan, GCheck
10. 柔軟で共感力のある文化を育む
AIが浸透する職場において、マネジャーの共感力や心の知能指数(EQ)の向上を含む、企業文化への投資はますます重要になっている。可能な限りハイブリッドワークやフレックスタイム制を導入するなど、透明性が高く、柔軟で、社員のニーズに応える文化を築くことで、企業は優秀な人材をより確実に引き留めることができる。 - Nicky Hancock, AMS
11. AI変革を巡る信頼関係を構築する
給与単体よりも強力なリテンション戦略は、AIの導入が無責任に進められることはないという安心感を社員に与えることだ。「責任あるAI移行への誓約」と「スコアカード」を策定し、AIがどこに導入され、人間の判断がどのように守られ、社員がどのようにリスキリングや再配置されるかを示す。時間の経過とともに、このスコアカードは、台頭するAI市場において求職者やクライアントに対する「健全性の証(グリーンフラッグ)」となる。社員は、自分の未来が会社のなかに存在すると信じられたときに定着するものだ。 - Dr. Timothy J. Giardino, myWorkforceAgents.ai
12. 個人の仕事をより大きなパーパスにつなげる
最も効果的なリテンション戦略の一つは、社員が「自分の仕事には意味がある」と理解できるようにすることだ。優れたリーダーは、個々の貢献を組織のより大きなビジョンに結びつけ、その影響を可視化する。給与は関心を引きつけるかもしれないが、やりがいのある仕事と明確なパーパス(目的意識)こそが、永続的なコミットメントを生み出す。 - Felicia Taylor, Quantum Health
13. 柔軟性と人間味をもってリードする
心からのリーダーシップは、昇給単体よりも強力だ。思いやりと柔軟性を持ち、一人ひとりの状況に真摯に目を向ける姿勢が、信頼と忠誠心を築く。リーダーが業務フローの枠を超えて個人のニーズを理解し、人間的な温かみを持って対応し、一人の人間としてサポートされていると感じられる環境を整えたとき、社員はとどまる。 - Britton Bloch, Navy Federal
14. ビジネスの未来に向けたスキルを構築する
最も効果的なリテンション戦略は、社員に「自分の将来の姿」を見せることだ。AIへの対応力(フルエンシー)を高め、ストレッチゴール(挑戦的な機会)を用意し、ビジネスの今後の方向性にとって重要な新しいスキルや経験の開発を支援することで、成長への投資を行う。自らが成長し、時代に適したスキルを身につけていると感じる社員は、組織にとどまる可能性が高くなる。 - Laura Coccaro, ICIMS
15. 権限を与え、声に応える文化を築く
組織文化は非常に強力なモチベーターだ。社内の社員やマネジャーに対し、自らイニシアチブを立ち上げたり、会議を主催したり、声を上げたりする権限を与える。定期的に従業員ネットプロモータースコア(eNPS)やエンゲージメント調査を実施し、リーダーシップチームがそれをレビュー・評価した上で、どのような変更を行うかを全員にフィードバックする。仕事を楽しいものにすれば、社員が去ることはない。 - Jennifer Morehead, Flex HR
16. スキルの向上を可視化する
戦略の一つとして、スキルの向上を実感できるようにすることが挙げられる。単なる研修の受講にとどまらず、実際の業務の実践を通じて目に見えて仕事が上達するよう組織が投資すれば、社員はそれを肌で感じる。自身の成長を実感できるのだ。社員が働く場所を選ぶとき、「スキルの貸借対照表(バランスシート)」は、銀行の預金残高と同じくらい重要になる。給与は人を呼び寄せるが、真の成長機会こそが人をとどまらせる。 - James Glover, Flint Learning Solutions
17. リーダーと社員の結びつきを強める
すべての世代において、本当の仕事の満足感は、共感、率直なフィードバック、および信頼を重んじるリーダーとの、真の人間関係の結びつきから生まれる。すべての管理職(ピープルリーダー)が積極的なコーチングやオープンな対話を実践できるよう支援することで、こうした結びつきを自然に育むことができる。本質的な関係性のサポートを優先することは、金銭的なインセンティブだけでは再現できない、日々の忠誠心の土台となる。 - Sherry Martin
18. 従業員体験に包括的なアプローチを採用する
給与の引き上げ単体よりも効果的になっているリテンション戦略は、従業員体験に対して包括的なアプローチを取ることだ。マネジャーとの関係強化、有意義な成長機会の創出、リーダーシップへの信頼構築、そして報酬を超えて自分が評価されているという実感を提供することで、組織はリテンションを向上させることができる。 - Fran Maxwell, Protiviti
19. 部門横断的な業務の機会を導入する
新しいキャリアを求めて社員が退職する代わりに、毎年数日または数週間、他部署で働く機会を提供する。これにより仕事の新鮮さが保たれ、部門間の相互理解が深まり、隠れた才能が発掘される。そして、優秀な人材を他社に奪われることなく、エンゲージメントを再燃させることができる。 - Natalie Grabher, USA Hall of Frames, Inc.
20. 個人のニーズに合わせて柔軟性をパーソナライズする
給与は人を呼び寄せるが、それだけで引き留められることはめったにない。重要なのは、単なる「人員数(ヘッドカウント)」ではなく、一人の人間として見てもらえていると感じることだ。健康状態、活動の好み、ライフステージなど、個人に合わせた柔軟な働き方を提供することは、どのような昇給でも再現できない「帰属意識」をもたらす。リテンション(人材維持)の成功は、誰かが自分を気にかけてくれているという証拠なのだ。 - Neepa Patel, WellRight



