2026年の中国の量子分野:国家投資が支える量子産業とハードウェア
中国では2019年以降、公的投資と民間資金が急増した。量子分野全体にも巨額の資金が流れ込んでいる。QED-Cの「State of the Global Quantum Industry 2026」によると、2025年の民間ベンチャー投資は世界全体で49億ドル(約7595億円)に達した。前年の過去最高額の2倍を超える規模だ。中国の量子コンピューティング産業の2025年の売上高は115.6億元(約2659億円)で、年30%を超えて成長した。量子関連企業も2023年の93社から2024年には153社へ増えた。
国家基金が量子技術への巨額投資を支える
中国では国家主導の資金投入も続く。2026~2030年を対象とする第15次5カ年計画は2026年3月に承認され、量子技術は7つの「未来産業」の筆頭に位置づけられた。政府資金を呼び水に民間投資を促す中国国家ベンチャーキャピタル誘導基金は、量子技術に重点を置く3つの地域基金へ1218億元(約2兆8014億円)を配分した。対象は、量子コンピューティングと量子センシングを扱う北京・天津・河北、量子通信を扱う長江デルタ、商用製品を扱う広東・香港・マカオだ。3つの地域基金は2026年、27件の直接投資案件への支援を発表した。中国の2026年第1四半期だけの量子分野への投資額は、2025年通年に近い水準だった。
(編注:日本政府も2022年に策定した「量子未来社会ビジョン」で、2030年に国内の量子技術利用者を1000万人規模へ拡大する目標を掲げている。理化学研究所は2023年3月、64量子ビットの国産超伝導量子コンピューター初号機をクラウド公開し、後に「叡」と命名した。2026年3月には144量子ビットの後継機「叡-II」の運用を開始している)
複数方式で進む量子コンピューター開発
中国は量子コンピューターのハードウェアでも複数方式を並行して進めている。超伝導量子プロセッサー「Zuchongzhi」シリーズは2021年の62量子ビットから、Zuchongzhi 3.0で105量子ビットへ増えた。2025年12月には107量子ビットのZuchongzhi 3.2が、量子誤り訂正方式である符号距離7の表面符号を使い、誤り訂正の閾値を下回る動作を実証した。量子ビットを増やすほど論理エラーが減る「誤り訂正の閾値以下」に到達していたのは、米国時間2026年8月25日時点で中国科学技術大学とグーグルの研究チームだけだった。
中国の別の超伝導システム「Tianyan-504」は504量子ビットを備える。クラウド利用では「Origin Wukong」が163カ国の利用者にサービスを提供し、76万件を超える量子計算を処理した。2025年10月には、100量子ビットの中性原子量子コンピューター「Hanyuan-1」が中国初の商用中性原子量子システムとして導入され、顧客にはパキスタン政府が含まれていた。
(編注:日本では富士通と理化学研究所が2025年4月、256量子ビットの超伝導量子コンピューターを開発した。富士通は2026年度に1000量子ビット級の超伝導量子コンピューターを設置・公開する計画で、NEDOの国家プロジェクトにも参画し、2030年度までに1万物理量子ビットを超えるシステムの構築を目指している。量子ビットの方式、品質、接続性、エラー率などが異なるため、量子ビット数だけで異なる量子コンピューターの性能を単純比較することはできない)
中国は量子通信網で米国を大きく上回る
2019年の記事では、中国が量子通信で米国より大きく先行していると指摘していた。米国時間2026年8月25日時点でも、米国は量子通信で中国に追いついていない。中国は2019年以降、17省80都市を結ぶ世界最大の実運用量子通信網を構築した。既存の北京―上海幹線と新たな中国量子通信網を合わせた光ファイバー総延長は1万2000キロを超え、145の基幹ノードを備える。中国電信は2025年時点で、量子通信サービスの利用者が680万人を超えたと報告している。
中国は2016年に量子通信衛星「Micius」を打ち上げた。Miciusは軌道減衰によって2026年に運用を終えたが、中国には代替役を担う小型衛星「Jinan-1」がある。Jinan-1は、中国各地の地上局と南アフリカのステレンボッシュにある地上局との間で、量子鍵配送(QKD)をリアルタイムに実証した。QKDは量子力学の性質を利用して暗号鍵を共有し、盗聴の有無を検知できるようにする技術だ。Jinan-1を使った実験は南半球初の量子衛星通信となり、中国と南アフリカを結ぶ1万2900キロの大陸間QKD記録も樹立した。中国は2027年、衛星群を使ってBRICS諸国間を結ぶ世界規模の量子通信サービスを始める計画だ。
中国科学技術大学などの研究チームは2026年2月2日、長距離の量子通信で必要になる量子中継器の実用化に向けた重要な研究成果をNatureに発表した。量子中継器は、離れた拠点間で量子もつれを段階的につなぎ、光ファイバー上で長距離の量子通信を成立させるための技術だ。研究チームはイオントラップ方式の量子メモリーを使い、10キロの光ファイバーで隔てた2地点の量子メモリー間に長時間維持できる量子もつれを生成した。
米国には残念ながら、中国と同等の実用量子通信インフラがない。米エネルギー省のQuantum Internet Blueprintや複数の実証設備は、まだ初期段階の取り組みだ。著者は2026年、IonQが進める世界規模の量子ネットワーク計画を解説するホワイトペーパーも執筆している。


