テクノロジー

2026.09.18 12:00

米中による量子技術競争の現在地──米国は商用基盤、中国は量子通信網で優位を築く

stock.adobe.com

2026年の米国の量子分野:商用量子計算と耐量子暗号標準で先行

米国では2019年以降、政府支援と民間投資がともに増えた。米商務省は米国時間2026年5月21日、CHIPS法に基づき、量子関連企業9社へ総額20億1300万ドル(約3120億円)規模の支援を提供する意向書を締結した。量子分野に対する単独の米政府支援策として過去最大規模で、従来型の助成とは異なり、支援条件として政府が各社の少数・非支配持ち分を取得する設計だった。

advertisement

計画では、IBMに10億ドル(約1550億円)、複数方式の量子チップを扱うGlobalFoundriesに3億7500万ドル(約581億円)を提供する。D-Wave、Rigetti、Infleqtion、PsiQuantum、Quantinuum、Atom Computingには各1億ドル(約155億円)を充てる。Diraqのシリコンスピン量子ビット開発には最大3800万ドル(約59億円)を割り当てる。対象は超伝導、中性原子、光子、イオントラップ、トポロジカル、シリコンスピンなど主要方式にまたがり、米国内の量子製造・開発基盤を広く支える構成だ。

IBMは政府支援とは別に、ニューヨーク州オールバニーで量子ウエハーを専門に扱うファウンドリー「Anderon」へ10億ドル(約1550億円)を投じる計画を示した。量子チップ向けウエハーの受託製造に特化した米国初の施設を目指す。IBMは2026年6月2日、量子分野へ5年間で総額100億ドル(約1兆5500億円)を超える投資を行い、2029年までに大規模なフォールト・トレラント量子コンピューターを開発する方針も示した。フォールト・トレラント量子コンピューターとは、複数の物理量子ビットを使ってエラーを検出・訂正し、量子ビットに誤りが生じても計算を継続できる量子コンピューターを指す。

IBMは世界で90台を超える量子システムを導入しており、IBMによれば業界の他社を合計した数より多い。IBM Quantum Networkには、金融、医療、材料科学、学術、政府の各分野から340を超える組織が参加している。

advertisement

グーグルは誤り訂正を実用化へ近づける

グーグルも長期投資を続けてきた。グーグルの量子研究部門Google Quantum AIは2024年12月、105量子ビットのチップ「Willow」で、量子誤り訂正が機能し始める重要な境界を越えた。量子誤り訂正では、複数の物理量子ビットをまとめて1つの論理量子ビットとして扱う。Willowは、誤り訂正に使う量子ビットを増やすほど論理エラーが減る「閾値以下」の動作を示し、約30年にわたり追求されてきた目標に到達した。

グーグルは2025年10月、Willow上で動く「Quantum Echoes」アルゴリズムが、検証可能な量子優位性を示したと発表した。量子優位性とは、比較可能な古典コンピューターより速く、または効率よく計算できることを指す。Quantum Echoesによる計算は米オークリッジ国立研究所のスーパーコンピューター「Frontier」より1万3000倍速く、別の量子コンピューターでも結果を再現できた。2026年1月には、量子誤り訂正方式の1つである動的表面符号をWillowで使い、100万回の誤り訂正サイクルにつきエラー1回未満の長寿命な論理量子ビットを目指す研究を説明した。

新興企業に流れ込む巨額の民間資金

米国に本社を置く量子技術の新興企業は2025年、合計27億ドル(約4185億円)を超える資金を調達した。PsiQuantumはブラックロック主導のシリーズEで10億ドル(約1550億円)を調達し、企業価値は70億ドル(約1兆850億円)と評価された。量子コンピューティング分野では過去最大の単独民間調達だった。

米政府が強化する量子戦略と耐量子暗号

米政府は2026年6月22日、量子技術政策と耐量子暗号への移行をそれぞれ扱う2本の大統領令を出した。量子技術に関する大統領令は国家量子戦略の更新を命じ、科学研究に使える大規模量子コンピューターの開発を進める国家的取り組みを設けた。別の大統領令は、量子コンピューターでも破られにくい耐量子暗号へ米政府の情報システムを移行する方針と期限を定めた。

米エネルギー省は2026年6月23日、2028年までに数百個規模の論理量子ビットを備えたフォールト・トレラントなシステムの実証を目指す「Quantum Genesis」を発表した。

米国立標準技術研究所(NIST)は2024年8月、耐量子暗号の3つの標準FIPS 203、204、205を確定した。量子コンピューターによる将来の攻撃に耐える鍵共有とデジタル署名の基礎となる標準だ。NISTが2024年11月に公表した移行指針案IR 8547は、RSAや楕円曲線暗号など量子コンピューターに弱いアルゴリズムを2035年までにNIST標準から段階的に廃止し、最終的に削除する方針を示す。耐量子暗号市場は、2025年の4億2000万ドル(約651億円)から2030年には28億4000万ドル(約4402億円)規模になると予測されている。

次ページ > 2026年の中国の量子分野:国家投資が支える量子産業とハードウェア

タグ:

advertisement

ForbesBrandVoice

人気記事