Forbes JAPAN 2026年11月号の第2特集は、日本発で世界を驚かす共創プロジェクトに光を当てる「Xtrepreneur AWARD 2026」。4回目の今回は応募要件から大企業の参画を外した。これまで以上に多彩な顔ぶれから、6つの共創プロジェクトを選出した。組織のレガシー(資産)をかけ合わせ、一社単独では生み出せない大きなインパクトを創出する共創物語に迫る。フードイノベーション賞を受賞したのは、宮城県女川町発で世界展開を狙うトリガイの種苗生産プロジェクトだ。
環境負荷の低い次世代タンパク源「トリガイ」の種苗生産に挑む。生残率4%という事業化ラインを見据えつつ、養殖サプライチェーンの最上流を押さえ、女川町発のグローバル展開を狙う。
江戸前寿司の高級ネタ「トリガイ」。年間漁獲量は推定約1000トンと希少で、天然資源への依存度が高い。通常数年かかる種苗生産を、宮城県女川町ではわずか1年で確立し、事業化への第一歩を踏み出した。
スタートアップ企業チキンクラム(社名はトリガイの英名に由来)の代表・長谷川翔亮は、大学時代に学んだ環境学の視点から二枚貝に着目。牛や豚など畜産に比べ、圧倒的に環境負荷の低いタンパク源とされ、なかでもトリガイは1年で育つほど成長が早い。このポテンシャルを見込み、女川町を選んで2024年初めから種苗生産を始めた。
女川町も近年の海水温上昇でホタテ・カキ・ホヤの生産量が落ち込み、水産業を支える新たな柱の模索が課題だった。女川町役場の鈴木涼太は「震災以降、野心的な方を受け入れ、一緒に考えてできることをやろうという機運があった」と語る。
海には「漁業権」という法的な壁があり、誰もが自由に養殖を始められるわけではない。宮城県漁業協同組合の小山雄介は「生産者側の理解と協力がなければ、養殖の場所すら決まらない」と打ち明ける。このハードルを打ち破ったのが町と漁協だ。設備貸与や研究場所の確保などの支援を受け、長谷川が種苗生産に専念し、生産者が海で育てる「二段構え」の体制を整えた。
長谷川は「試行回数の最大化」を重視し、スタッフと水槽数を増やして通年で人工授精実験を積み重ねている。
事業化ラインの生残率4%へ
水の変化で全滅するほど繊細な幼生に適した水質や餌の条件を見いだすことで、生残率は初成功時の0.1%未満から1%に向上した。「4%まで到達すれば、事業として成り立つ」と長谷川は目標を見据える。
25年は町内8カ所で約2000匹が飼育され水揚げ目安の殻長7〜8cm超の個体もある。26年は1万匹規模の生産を目指す。
種苗生産は養殖供給網の最上流を握る戦略的ポジションだ。ここを押さえれば、川下の養殖・加工・流通までを女川主導で組み立てられるうえ、緯度や水温帯が近い海外展開も視野に入る。日本産ホタテやカキが海外定着した前例があり、女川のノウハウもその可能性を秘める。
鈴木涼太◎宮城県女川町産業振興課参事兼水産係長。大学卒業後、1999年4月に出身地・宮城県へUターンし宮城県女川町役場に入庁。総務課、企画課などを経て、2021年4月に産業振興課に配属され、現職。(写真左)
長谷川翔亮◎チキンクラム代表、女川町地域おこし協力隊。千葉県出身。米国ブラウン大学卒業後、三菱商事、Uber Japan、米植物工場スタートアップのOishii Farmを経て、女川町に移住。2024年にチキンクラムを創業した。(写真中)
小山雄介◎宮城県漁業協同組合女川町支所課長。2004年4月に旧宮城県漁業協同組合連合会に採用。07年4月に広域合併した宮城県漁業協同組合の本所総務課・指導課を経て、25年4月より現職。(写真右)



