SpaceX(スペースX)が6月中旬に記録的な新規株式公開(IPO)を果たし、OpenAIやAnthropic(アンソロピック)といったフロンティア・ラボが株式公開に向けて動き出すなか、「私たちはAIバブルの中にいるのか?」という疑問が再び大きく浮上している。(開示事項:筆者はスペースXの初期投資家である)
チップ、巨大クラウド企業、最先端のモデル開発企業(フロンティア・モデル・ラボ)からなるインフラ層は、驚異的な数字を叩き出す一方で、バブルの兆候も見せている。特定業界やワークフロー向けに構築されたツールであるアプリケーション層は、遅いながらも着実に進んでいる。狂騒のなか、多くの投資家や起業家は「本当のチャンスはどこにあるのか?」と自問しているかもしれない。
インフラ:実需、大型投資、そして過剰な期待
Nvidia(エヌビディア)が発表した2026会計年度の通期売上高は前年同期比65%増の2159億ドル(約33兆4000億円)で、第4四半期のデータセンター部門の売上高だけで約620億ドル(約9兆5800億円)に達した。そして、そのペースはさらに加速している。2027会計年度の第1四半期において、売上高は前年同期比85%増の816億ドル(約12兆6000億円)に達した。
未公開株市場(プライベートマーケット)側では、2025年の世界のベンチャー資金調達額の半分以上をAIが占めた。2026年第1四半期には、一握りの大型案件が投資された資本の大半を占めた。この規模の集中は、循環的なダイナミクスを生み出す可能性がある。大企業がスタートアップに投資したり、支出を約束したりし、そのスタートアップが今度は彼らのチップやクラウド容量を購入するという構図だ。スペースXは今年6月、長期的な支配力を織り込んだ評価額1兆7700億ドル(約274兆円)で上場した。株価が下落しても、同社が今後何世代にもわたって存続する企業になると確信し、株を買い増す信奉者もいる。
現在のバリュエーション倍率(マルチプル)は上昇しているが、ドットコムバブル期の極端なレベルには達していない。IntuitionLabsによると、2000年のピーク時におけるナスダック100指数の予想株価収益率(P/E)は約60倍であったのに対し、現在の予想P/Eは23倍とその半分以下にとどまっている。実績ベースの倍率はより高いものの、収益の質も向上している。ナスダックによると、「ナスダック100のほぼ4分の3がP/E 60倍超で取引されているか、あるいは赤字であった」1990年代とは異なり、現在のナスダック100指数構成企業は、力強い収益と成長見通しを示している。
構造的なリスクは、収益がゼロになることではなく、インフラ投資と実際に企業が得られる投資対効果(ROI)との間のギャップにある。広く引用されているMIT(マサチューセッツ工科大学)ナンダー(NANDA)の報告書によると、生成AIの試験的導入(パイロットプロジェクト)の95%は、測定可能な損益インパクトをもたらすことに失敗している。マッキンゼーの2025年の調査でも同様に、大半の組織が依然として試行段階にあり、AIが利払い前・税引き前利益(EBIT)に何らかの影響を与えたとしているのは、わずか37%程度で、その大部分における貢献度は5%未満にとどまっている。
設備投資が急増する一方で企業のROIが遅れ続けるなら、市場はいずれ、次の構築段階の費用を誰が負担するのかという問いに答えざるを得なくなる。筆者は、単一のバリュエーション倍率よりも、この緊張こそがインフラ層を時にバブル的に見せている要因だと考えている。
アプリケーション:深い専門知識、シームレスな適合、そして安心感
筆者の見解では、アプリケーション層には上昇余地(アップサイド・ポテンシャル)がある。法律、金融、医療、教育などの規制が厳しくリスクの高い業界において、顧客が求めているのは単なる新しいチャットボットではない。彼らが購入しているのは、リスクの低減と測定可能な成果である。
汎用モデルは四半期ごとに進化しているが、業界特有のルール、独自のデータ、説明可能性の要件、そして法的責任への対応に苦慮することが多い。こうしたバーティカル(特定の業界に特化した)市場での勝者には、いくつかの共通の特徴がある。それは、既存のワークフローに深く組み込まれていること、汎用モデルでは容易に模倣できない専門知識や独自データを重ね合わせていること、差別化された成果をもたらすこと、そして比較的少ない資本で高い利益率を維持できるビジネスモデルを構築していることだ。
筆者の専門分野である教育は、その典型例である。大学入試は、結果が明確に測定される極めて重要な決断であり、保護者からは強い説明責任が求められる。汎用ツールでもエッセイの下書きはできるかもしれないが、長年の経験から生まれる判断力、人間関係、成果を再現することはできない。保護者や学生が実質的に購入しているのは、ソフトウェアのライセンスではなく、「安心感」であり、転嫁されたリスクなのだ。
同じ論理は、他のバーティカル市場にも当てはまる。専門的なワークフローの最も重要な段階に位置し、契約やコンプライアンスを通じて法的責任を引き受け、システム統合を通じて依存関係を作り出すツールは、強固な参入障壁(経済的な堀)を築く傾向がある。
これが起業家にとって意味すること
私たちは現在、インフラ層における構築のスーパーサイクルと、アプリケーション層における産業シフトの初期段階に、同時に立っていると筆者は考えている。前者は、IPOがストーリー(ナラティブ)に対するプレミアムを試し、企業がより明確なROIを求めるなかで、一時的な調整を挟みながらも拡大を続ける可能性が高い。後者は、予算化された特定のワークフローや、測定可能なビジネス成果に結びついているため、より着実に成長していく可能性がある。
筆者の見解では、特に将来の成長ストーリーに基づいて価格設定されたIPOの波を考えると、現在の最先端ラボに対する資本の集中と未公開企業としての評価額には、バブルのような特徴が見られる。しかし、2000年とは異なり、基盤技術は業界リーダーや起業家に成長をもたらしており、モデルの向上と推論コストの低下による生産性の向上は本物であり、今も続いている。
筆者の考えでは、より大きなチャンスは、これらの強力なモデルを取り入れ、汎用AIが十分に機能しない、規制が厳しくデータが豊富な特定業界のワークフローに組み込むスタートアップにある。
起業家にとって、シグナルは明確だ。広さではなく深さを追求すべきである。既存の業界向けソフトウェアやプロセスの中で、痛みを伴い、規制があり、または失敗の代償が大きい問題を解決する企業を築くことだ。インフラの波は、より強力で安価なツールを提供し続ける。それらのツールを、特定の業界内で信頼されるワークフローのエンジンへと変える企業こそが、避けられないサイクルを乗り越えられるポジションを築くことができる。
バブルをめぐる問いは、実際には二層構造である。基盤・インフラ層では、市場の一部が完璧なシナリオを織り込んでおり、いずれ調整局面に直面する可能性が高い。一方で、AIがワークフロー、データ、そして説明責任と交わるアプリケーション層では、より興味深く、かつ持続性のある章がまさに始まりつつある。



