経営・戦略

2026.09.15 13:30

「受援力」が会社を強くする 有事に問われる本当の経営資産

困難なときにこそ、企業の本当の資産が見えてくる。能登で出合った「受援力」という言葉から、信頼と経営の関係を考える。マクアケ創業者による連載第67回。

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企業にとって、本当に価値のある資産は、決算書に載っているものだけではない。平時にはその存在が見えにくくても、有事になった瞬間に大きな力を発揮するものがある。人や企業との間に積み重ねてきた「信頼」も、そのひとつだ。

私も理事を務める一般社団法人ベンチャー型事業承継では、例年「AVS(アトツギベンチャーサミット)」を開催している。2026年は、全国のアトツギ経営者が能登半島に集まり、現地の今を自分の目で見て、復興や新たな事業づくりにおいて何か協働できることはないかを探す、ツアー形式で実施された。

私が訪問したのは、石川県能登町にある「ふくべ鍛冶」と「数馬酒造」。ふくべ鍛冶は、地域の暮らしを支えてきた野鍛冶である。数馬酒造は、能登の米と水を生かし、「竹葉」をはじめとする酒づくりを続けてきた日本酒の蔵元だ。両社の経営者から、2024年に起きた能登半島地震、そして同年9月の豪雨によって経験した厳しい現実を聞かせていただいた。事業の継続さえ簡単ではない状況でも、彼らは新しい商品やサービスを生み出す「攻め」の姿勢を失わなかった。その話は、一緒に聞いていた参加者たちの心を強く打った。

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なかでも、ふくべ鍛冶代表の干場健太朗さんが口にした「受援力」という言葉が、特に印象に残った。文字通り、応援や支援、援助を受ける力のことである。助けを求めることを、弱さではなく再び立ち上がるための経営力としてとらえる言葉でもある。被災直後にもかかわらず新たな挑戦ができた背景には、多くの人たちからの支えがあったという。しかし、その支援は何もないところから突然生まれたわけではない。取引金融機関、顧客、流通企業、地域の人々、仕事を通じて出会ったさまざまな仲間。平時から一つひとつの関係を大切にし、信頼を積み重ねてきたからこそ、困難なときに助けを求めることができ、相手から支援を申し出てもらうことができた。普段は目に見えなかった「関係性という資産」が、有事に可視化されたのである。支援のかたちも、資金や物資だけではない。販路の紹介、情報の提供、人材の派遣、励ましの言葉など、相手が差し出せる力はさまざまだ。それらが重なり、経営者が前を向くための余白を生み出していた。

受援力は「与える力」でもある

同時に、申し出を遠慮して拒むのではなく、素直に受け取り、心から感謝することも欠かせない。受援力とは、単に助けてもらえる人脈の多さではなく、助けを受け入れ、その思いを次の行動につなげる力までを含む。今回支援を受けた人たちの多くは、きっと普段は誰かを支援する側の人たちだったのだと思う。受援力は一方通行ではない。日々の小さな貢献や気遣いが巡り巡って、いざというときに別のかたちで返ってくる。

以前このコラムで、京都に長寿企業が多い理由を考えたことがある。平時にできる限りの「Give」を重ね、有事には互いに融通を利かせる。濃い付き合いの範囲を広くもち、短期的な損得だけでは測れない関係性を育てる。そこには、今回の受援力と共通するものがあるように感じる。

受援力が必要なのは、災害のときだけではない。大きな投資、新規事業、海外進出など、企業が勝負をかける攻めどきにも、周囲の知恵や信用、協力が成否を左右する。しかし、勝負の瞬間になってから関係をつくろうとしても、きっと遅い。自社は、誰かが困ったときに声をかけられるだろうか。そして、困ったときに声をかけたいと思われる存在だろうか。受援力をもつ会社とは何か。謙虚に向き合っていきたいと思う。


なかやま・りょうたろう◎マクアケ代表取締役社長。サイバーエージェントを経て2013年にマクアケを創業し、アタラシイものや体験の応援購入サービス「Makuake」をリリース。19年12月東証マザーズ(現グロース)に上場した。

文=中山亮太郎 イラストレーション=岡村亮太

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