リーダーシップ

2026.09.15 09:38

AI活用が当たり前の時代、競争優位を生む「顧客インサイト」の力

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私はこれまでのキャリアを一貫して、人間の行動を理解することに捧げてきた。だからこそ、数年前に「AIの登場によって、企業は本物の人間に話を聞く機会を大幅に減らせるようになるのではないか」と考え始めたことは、意外に思われるかもしれない。

「シンセティック・カスタマー(合成顧客)」が提供できること、できないこと

初めて「シンセティック・カスタマー(合成顧客)」について聞いたとき、私はその可能性に胸を躍らせた。そして今もその気持ちは変わらない。この提案は非常に魅力的だ。最も価値のある顧客をAIで再現し、好きなだけ質問を投げかける。調査対象者をリクルートしたりインタビューしたりする必要はなく、彼らが疲れたり、こちらの質問に退屈したりすることもない。従来の調査にかかるコストの数分の一で、オンデマンドで回答を得ることができるのだ。

シンセティック(合成)データ企業のSimile(シミレ)は、これを実践している好例だ。同社は最近、20億ドル(約3080億円)の評価額で2億ドル(約308億円)を調達した。そのため、シンセティック・カスタマーは、企業が人々を理解し意思決定を行う上で、今後ますます重要な役割を担うようになると確信している。

しかし、AIを活用すればするほど、そこには落とし穴があることに気づかされた。シンセティック・カスタマーの精度は、そのベースとなる人間に対する理解度を超えることはない。彼らは本物の人間のデータに基づいて構築される必要があり、人々や市場の進化に合わせてデータを更新し、その回答が依然として現実を反映しているかどうかを本物の人間と照らし合わせて検証しなければならないのだ。

私の経験上、最も価値のある顧客インサイトとは、矛盾や予想外の行動、新たなニーズ、あるいは問題の見方を根底から変えてしまうような不都合な真実の中にこそある。

だからこそ、クライアントが「シンセティック・データがあれば、もはや人間のインサイトに投資する必要はない」と言われているのを耳にすると、私は立ち止まってしまう。新鮮な人間のインサイトが絶えず供給されなければ、合成モデルはすでに知られている事実に磨きをかけて再現するだけの存在になりかねない。

エージェンシーのリーダーがAIツールと人間のインサイトを融合させる4つの方法

現在、優れたAI技術を利用できることは競争上の優位性となっているが、その状況が長く続くとは思えない。

マッキンゼーは、競合他社が同じAIツールを利用できるようになるにつれ、価値は独自データや顧客関係、より迅速に学習する能力など、企業がそのツールの周囲に何を構築するかにシフトしていくと主張している。

クライアントがPowerPointやTeamsを使っているという理由だけでエージェンシーを選ばないのと同じように、単にAIを使っているからという理由だけでパートナーを選ぶことはない。優位性をもたらすのは、私たちがAIと人間のインサイトをいかに知的に組み合わせるか、という点にある。

エージェンシーのリーダーがそれを実践するための4つのアプローチを紹介する。

1. AIを活用し、すでに知っている情報を最大限に活かす

ほとんどの組織は、すでに膨大な顧客知識を保有している。問題は、それがレポートやデータセット、過去のプロジェクトに分散していることだ。AIはそれらの根拠を繋ぎ合わせ、パターンをあぶり出し、チームが何年にもわたって蓄積された知識を数秒で掘り下げるのを支援できる。

シンセティック・カスタマーは、この取り組みをさらに推し進める。人間を対象とした質の高い調査は、もともと調査を依頼された目的の質問に答えるためだけに留まらなくなる。その理解が合成モデルの基礎となれば、チームは何度もゼロから始めることなく、新しい質問を投げかけ、仮説を検証し、アイデアをテストできるようになるのだ。

これにより、人間のインサイトに対する当初の投資が、より大きな価値を生み出すことになる。

2. より深い人間のインサイトに投資する

すでに知られていることを理解するのがAIの得意分野になっていくとすれば、価値のプレミアムは、捉えるのがより困難な人間のインサイトへと移行していくだろう。

それは、感情、隠された行動、不合理な選択、そして人々の言葉と実際の行動の間のギャップをより深く掘り下げることを意味する。行動科学、エスノグラフィー(行動観察調査)、そして豊富な定性調査は、価値が下がるどころか、ますます重要になっていくだろう。

私はデータソースとしての音声の書き起こし(トランスクリプト)に特に注目している。2時間にわたる会話からは、単なる回答だけでなく、その人が使う言葉、語るストーリー、矛盾、感情的な反応、そして彼らがなぜそのように考え、行動するのかという背景まで捉えることができる。スタンフォード大学による最近の研究は、長時間のインタビューの書き起こしをAIエージェントの基礎データとして使用した際に得られる情報の豊かさを示す、好例である。

3. AIと人間のインサイトを相互に競わせる

これこそが、両者の組み合わせが真の変革をもたらすポイントだと私は考えている。

AIと人間のインサイトは、単に並存して同じことを大まかに伝えるだけであってはならない。真の価値は、一方を用いてもう一方に挑むときに生まれる。

もしAIが指摘することと、本物の顧客が語ることが異なれば、その違いには重要な意味がある。それは、モデルが時代遅れの前提に依存していることや、行動に変化が生じたこと、あるいはすべてが平均化された際に消えてしまう、小規模ながらも重要な層が存在することを示しているのかもしれない。

意見の相違は、モデルの限界を露呈させることもあれば、真に新しい何かを発見することにも繋がる。だからこそ両方が必要なのだ。パターンを見出すためのAIと、理解を深めるための人間のインサイトが。

4. システムを常に現実に接続させておく

新鮮な人間のインサイトを、プレゼン資料の中に埋もれさせて終わらせてはならない。それをシンセティック・カスタマーにフィードバックし、常に本物の人間を相手に検証し続けるのだ。

世界で最も著名な世論調査・分析機関の一つであるギャラップ(Gallup)は、シミュレーション回答の活用について調査を進めている。これには、質問が元々の人間へのインタビューで扱われたトピックから離れるにつれて精度がどのように変化するか、また世界が変化する中で予測モデルが時間とともにどのように劣化していくかについての研究が含まれている。

おわりに

この最後のポイントは、重要な疑問への答えとなる。すなわち、「今でも本物の人間が必要なら、なぜわざわざシンセティック・カスタマーを使うのか」という問いだ。その理由は、両者が果たす役割が異なるからである。

人間を対象とした調査は、システムに新しい理解をもたらし、それを現実世界に繋ぎ止める役割を果たす。一方で、シンセティック・カスタマーは、その理解を何度も掘り下げ、元の調査では到底カバーしきれなかったほど多くの質問や意思決定に適用することを可能にする。

したがって、中身の濃いインタビューは一度きりで使い捨てるものではなくなる。それは、継続的に構築し発展させていける資産となるのだ。

これこそが、私が最もエキサイティングだと感じる未来である。本物の顧客の代わりにシンセティック・カスタマーを使うのでもなく、人間のインサイトの代わりにAIを使うのでもない。お互いが継続的に高め合っていくシステムなのだ。

誰もが優れたAIにアクセスできる時代において、競争優位性をもたらすのは、競合他社が簡単には購入できないもの、すなわち、人間に対するより豊かで、新鮮で、独自の理解にほかならない。

forbes.com 原文

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