アトラシアンが最近実施した調査では、経営幹部の89%が「AIは仕事のスピードを加速させている」と回答した。
しかし、それを証明することには苦戦している。事業全体におけるAIのROIを示せると自信を持って答えた人は、わずか6%だった。
Forbesは、エンタープライズソフトウェア企業アトラシアンの最高人材・AI推進責任者であるアヴァニ・ソランキ・プラバカール氏に話を聞き、AIのROIを把握することがなぜ依然として難しいのか、そして組織変革がいかに持続的で測定可能なインパクトを生み出せるのかを探った。
本インタビューは、明瞭さと長さのために一部編集している。
質問01
組織がAIの価値を測定するのはなぜ難しいのか。
多くのAI戦略には、チームという単位に関する盲点がある。リーダーたちは、AIにアクセスできるものの、それをチームとしてどう使えばよいかわからない労働力を生み出している。AIは個人を速くするが、個人の仕事が速くなることが、自動的により良い事業成果につながるわけではない。多くの企業では、むしろ調整の問題を生み出し、このスピードを想定して設計されていないシステムに、より多くの仕事を流し込むことになる。
目標にすべきは、効率よりもイノベーションだ。スピードや利用状況、トークンだけを測定しているなら、本当に問うべきことを見落としている。仕事は改善したのか。チームはより良い意思決定をしたのか。顧客の問題はより速く解決されたのか、ということだ。
アトラシアンでは、私たち自身の考え方も成熟させる必要があった。最初は「導入率」から始めた。それが最も可視化しやすいからだ。次に利用の深さを見て、現在はサイクルタイム、品質、事業価値といった仕事の成果を見ている。特にエージェントがより多くのことを担い始めるなかでは、測定単位はユーザーではなく、仕事でなければならない。
質問02
リーダーがAIのROIを把握しようとする際、何を見落としているのか。
AI変革を効率化という目標から始めた時点で、すでに勝負に負けている。「人々はAIを使っているか」と問うのをやめ、「AIは彼らの働き方を改善しているか」と問うべきだ。
もう1つの誤りは、個人の生産性を過度に重視することだ。全員が速く動いていても、チームの足並みがそろっていないなら、混乱を加速させているだけである。実行エンジンを吹かす一方で、調整エンジンは息切れしている。そこでROIは失われる。
最後に、トークン使用量を測定することは一般的だが、それではAIが実際の仕事の進め方に組み込まれているかどうかはわからず、人々がイノベーションを起こしているかについても何も示さない。
また、健全なAI文化は、エンジニアリングと法務や人事では異なる姿をとることを認識することも重要だ。全員に1つの指標を使うと、変革ではなく量を評価してしまう可能性がある。私たちはこれを苦い経験から学んだ。現在は職能別に利用状況を見て、「スーパーユーザー」が何を違うやり方で行っているのかを研究している。
「スピードや利用状況、トークンだけを測定しているなら、本当に問うべきことを見落としている。仕事は改善したのか、ということだ」
質問03
企業がAIを生産性実験として扱うと、何が危うくなるのか。
「動いていること」を「進歩していること」と誤認するリスクがある。何千人もの人がAIを使っていても、会社の実際の働き方に持続的な変化がまったく起きていないことはあり得る。
AIは技術的変革であるのと同じくらい、文化的変革でもある。最大の障壁はモデルやツールへのアクセスではない。マインドセット、信頼、行動、そして自信である。チームは、AIが適切に使える領域と、人間の判断を主軸に残すべき領域を知る必要がある。
リーダーがその文化を築かなければ、AIは副次的なプロジェクトやコンプライアンス上の取り組みになってしまう。AIがチームの計画、意思決定、振り返りの一部になったとき、それは実験の段階を脱し、新たな運営モデルとなる。
質問04
AIが根本的に組織上の課題であるのはなぜか。
それは、仕事の進め方を全面的に考え直すことだからだ。テクノロジーだけでは到達できない。人とテクノロジーの優先事項をともに動かす必要がある。
だからこそ、私の役割は人材とAI推進を結び付けている。この変革の中心にある職能が1つあるとすれば、それは人事機能だ。人事は、能力と文化について全社横断の視点を持っている。AIが技術チームだけに置かれていると、導入を定着させる行動や規範を見落としてしまう。
質問05
AIがチームの機能の仕方に組み込まれると、何が変わるのか。
それは「全員がチャットボットを持っている」という状態よりも、チームの運営リズムそのものが変わった状態に近い。AIは、チームがすでに行っている儀式、つまり計画、ドラフト作成、オンボーディング、振り返りの中に現れる。
文脈、ワークフロー、文化が一緒に変わり始める。チームは、AIに何をしてほしいのか、人間の判断がどこで重要なのか、出力をどのようにレビューし、そこから学ぶのかについて、より明確になる。
シンプルな例がオンボーディングだ。当社の人事チームは、マネジャーが新入社員をオンボーディングするのを支援するため、NORA(Newlassian Onboarding Rovo Agent)を構築した。出発点は実務的な問いだった。チームを疲弊させずに、オンボーディングをどう拡大するか、である。私が重視しているのはこのパターンだ。実際のワークフローから始め、信頼できる知識ベースにエージェントを根付かせ、仕事に最も近い人々が反復改善できるようにする。優れたチームは、AIを使ってより良く一緒に考えている。
質問06
人事という職能に対する考え方はどのように進化したか。
AIが知能のコストと利用可能性を変えるなかで、人事リーダーは最も重要な任務の1つを託されている。それは、組織の働き方の再設計を主導することだ。今後、私たちがどのように変化し続けるかについて、いくつか予測がある。
- 人事は組織能力の設計者となり、人間とエージェントの能力の融合を認識するようになり、「人員数」の管理から「キャパシティ」の管理へと移行する。
- 組織設計は、特定の機能ではなく事業成果を中心に展開されるようになる。
- AIが最高の能力を発揮できるよう、この機能はますます豊富な文脈に依拠するようになる。事業ルール、人間関係の相関図、状況知識を理解するためだ。
- 人材プログラムは、固定された職務から流動的なスキルとキャリアパスへと移行する。すでに役割の境界が曖昧になっている。エンジニアはプロトタイプを構築でき、デザイナーはコードのバグを修正できる。そのため、役割は今後も拡大し、進化していくだろう。
- 人事はなくならない。変容していくのだ。人間は今後もその中心にあり続けると私は考えている。信頼を築き、場の空気を読み、AIには決して真似のできない方法でコーチングを行うからだ。
質問07
アトラシアンが最も高い成果を上げるAIチームを研究するなかで、どのようなパターンが見えているか。
最も強いチームは、自分たちが解決しようとしている問題に対して規律を持っている。AI活用が最も進んだ6つのチームに共通する点を調べたところ、次のことがわかった。
- 最も高い成果を上げるチームは、AIを導入自体を目的とするのではなく、現実の問題を解決するためのツールとして位置づけている。
- 彼らは明確さをスーパーパワーとして扱っている。AIは曖昧さに弱いことを知っているからだ。
- 「30%の品質ギャップ」に注意を払っている。AIはプロセスの大半を完了させてくれるが、人間によるレビュー、磨き込み、判断が不可欠である。
- 役割は変化したことを理解しており、必要に応じて手を貸すことを自然なこととして受け止めている。
- 期間を区切った実験を行い、具体的な制約を特定し、現実的な期限を設定している。
質問08
貴社の研究ではAIの「スーパーユーザー」も探っている。どのように定義しているのか。
現在、私たちはスーパーユーザーを職能別に特定している。エンジニアリング、デザイン、プロダクトマネジメント、マーケティング、法務、営業、財務、人事といった各職能は、AIの使い方がそれぞれ異なるからだ。それぞれに、週次のAIインタラクションにおける上位10%(90パーセンタイル)の基準値があり、その基準は仕事に応じて動く。
重要なのは、彼らがAIをどのように使うかである。スーパーユーザーは、文脈を作り、精緻なプロンプトを書くことに長けている。実行だけでなく、計画立案や仮説検証にもAIを使う。最も重要なのは、エージェントやテンプレートのような再利用可能なパターンを構築し、チーム全体を助けていることだ。彼らはしばしば、チームを繋ぐ結束点のような存在である。
質問09
リーダーは、そうしたスーパーユーザーの行動をどのように見つけ、育てることができるのか。
すでに仕事の進め方を変えている人を探すことだ。他の人が真似したくなるエージェントを作っているのは誰か。学んだことを同僚と共有しているのは誰か。
そのうえで、彼らに発信の場を与える。アトラシアンでは、Slackチャンネルであれ社内イベントであれ、従業員が自分のストーリーを共有できる場を作っている。リーダーが自分自身のAIユースケースをデモすると、たとえそれが洗練されていないものであっても、チームはそれに続く可能性が高まることがわかっている。
当社のあるエンジニアリングチームは、完全にAI主導のワークフローを試験導入し、手作業で書いたコードを一切使わずに4つの本番機能を出荷し、ペースを15倍に加速させた。そのプロセスを詳述した社内ブログ投稿は自然に広がり、1500人を超えるアトラシアン社員に読まれた。これは、私たちが築いている文化の証しである。強制によって変革を成し遂げることはできない。好奇心と、共有し失敗できる安全な場を作らなければならない。
「AIがチームの計画、意思決定、振り返りの一部になったとき、それは実験の段階を脱し、新たな運営モデルとなる」
質問10
5年後、AIの拡大に成功した企業を際立たせるものは何か。
勝者となるのは、AIをツールの展開として扱うことをやめ、新しい運営モデルとして受け入れた企業だ。そうした企業は文脈レイヤーを構築し、ワークフローを再設計しているだろう。
また、調整にもより優れているはずだと考えている。AIは実行を安価にするが、調整がボトルネックになる。規模拡大に成功する企業は、ペースが加速するなかでチームの足並みを保つ支援をしているだろう。局所的な実験段階から、全社で再現可能なパターンへと移行しているはずだ。
質問11
それを実現するには、どのような組織基盤が必要か。
文脈がすべてだ。文脈とは、AIがあなたの目標とトレードオフを理解することを意味する。それがなければ、AIはただより速く推測しているだけだ。
企業には、エージェント対応のデータと、デフォルトでオープンである文化が必要だ。AIによる粗悪なアウトプットに対抗するには、すべてのアプリとツールをつなぎ、オープンデータの文化を築き、すべてのプロジェクトを目標にひも付け、AIを自社の知識の利用者として扱うことだ。
ガードレールも必要である。責任あるAIは、壁に貼られたポスターで終わってはならない。チームには、人間の判断を主軸に残すべき場所について明確な指針が必要だ。優れたガードレールは人々の動きを遅くしない。憶測や迷いを取り除き、チームが自信を持って前進できるようにする。
質問12
リーダーが最初に注力できるステップは何か。
私なら次のことを優先する。
- 小さく始める。ただし、現実の仕事で始める。摩擦の大きいワークフローを1つ選び、手順を可視化し、人間が感性と判断を提供する一方で、AIがどこで手作業の負荷を引き受けられるかを問う。
- 知識の土台を整える。すべての過去文書を整理する必要はないが、今後に向けてより良い規範は必要だ。仕事が行われている場所で意思決定を記録し、文脈を見つけられるようにする。
- 実践を通じて習熟度を築く。現実の問題を題材にワークショップを行い、リーダーには自分自身のユースケースをデモしてもらう。アトラシアンでは、自社技術を「ドッグフーディング」することで、AIが私たちの働き方をどのように変革するのかを真に理解している。
また、私たちは新しいレポート「Leading with Context: Lessons from Atlassian's AI Journey」を公開したばかりだ。このレポートでは、アトラシアン自身のAI変革を掘り下げており、今日話した内容の多く、たとえば実際のROIを得ているチームとそうでないチームを分けるものは何か、そしてエンタープライズAIにおける真の差別化要因はモデルではなく文脈だと私たちが考える理由などを扱っている。この取り組みを始めようとしている人、あるいは続けようとしている人にとって、参考資料としてこのレポートを勧めたい。



