企業の競争優位性は、新規市場への参入や競合他社の買収、画期的な製品の発売、あるいはグローバルなサプライチェーンの構築といった「大きな決断」と、長い間結びつけられてきた。
そんな方程式を今、AI(人工知能)が変えようとしている。
競争優位性の「次のトレンド」は、歴史に残るような一握りの決断から生まれるのではなく、日常的に行われる数千ものありふれた決断を、より良く、より賢明に、そしてほんの少しだけ速く行うことから生まれることになるかもしれない。
営業担当者はどの顧客に優先して連絡すべきか? 調達担当者はどのサプライヤーに注目すべきか? 広報はどの製品を宣伝すべきか? 開発者はどのバグを優先して修正すべきか? どの従業員に支援が必要か? そもそもどの会議を開催すべきか?
こうした判断が、ニュースの見出しになることはめったにない。しかし、これらは総合的に組織のパフォーマンスを左右する。だからこそ、AIイノベーションは単なる自動化にとどまらない重要な意味を持つことになる。AIは日常的な判断を、絶えず改善を続け、次第に賢さを増すシステムへと変えることができる。
日常の意思決定プロセスに、AIがスピードと洞察をもたらす
AIイノベーションは、自動化された迅速なプロセスを通じて日常的な意思決定を改善し、戦略的プロセスに貴重な洞察をもたらす。データを迅速に収集・分析し、その結果を報告するAIの能力は、人間の能力をはるかに凌駕している。
2023年、世界最速のコンピューターは1秒あたりに約110京回の計算を実行した。こうした計算能力は、かつては研究機関やハイテク施設に使用が限定されていたが、AIの飛躍的な発展により、現在ではあらゆる規模の企業が同等の計算能力やデータ分析能力を利用できるようになった。さらに重要なのは、これらのシステムが、それを利用する各企業の具体的なニーズに合わせてカスタマイズできるという点だ。
例えば、アマゾン傘下の高級スーパーマーケット「Whole Foods Market(ホールフーズ・マーケット)」が導入した、AIを活用した在庫最適化を例に挙げよう。食料品店にとって日々の在庫管理の判断は極めて重要だが、AIは、過去の販売データや今後の販促キャンペーン、天気予報といったさまざまなデータを活用し、店舗がより迅速かつ賢明な判断を下せるよう支援する。AI機能のうちでも最も印象的なのは、補充の推奨や在庫予測をリアルタイムで更新できることだ。
AIの影響を分析したケーススタディによると、「ホールフーズでは、主に予測精度の向上とタイムリーな補充により、食品廃棄量が20%減少した。特に農産物や乳製品といった回転率の高い商品において、品切れの発生件数が大幅に減少した」という。
現場の管理職からは、手作業による在庫管理業務が削減され、その時間を顧客サービスや店舗の改善に充てられるようになったとの報告が上げられた。また、このシステムによってサプライヤーとの連携が改善され、ジャスト・イン・タイムの納品が可能になり、余剰在庫を最小限に抑えることができたという。さらにこのシステムは、顧客満足度の向上にも寄与している。



