その足がかりとして、25年10月には初の海外拠点をローンチした。それがオーナーシップ・ワークス・ジャパンである。日本でオーナーシップ・プログラムを展開する意義について、同団体の理事長でKKRアジア副代表兼KKRジャパン社長の平野博文はこう話す。
「従来の富の配分はもっと改善できる。もつ者ともたざる者の格差はより小さくできるし、そうすべきだ。日本でワニの口(経営者と一般労働者の金融資産額の差)が大きく開く前に、従業員に金融資産が行き届くようにしなくてはいけない。日本では、ミドル層以下の従業員の頑張りが企業のクオリティを高め、維持している。従業員全員に対してインセンティブを設けることはとても大切だ」(平野)
オーナーシップ・ワークス・ジャパンのパートナーには、運用会社としてアポロ・グローバル・マネジメントや日本産業パートナーズなど10社が、リミテッド・パートナーとしてかんぽ生命保険や第一生命保険など4社が、金融サービス業界のパートナーとして三菱UFJ銀行や三井住友銀行など4社が名を連ねる。マッキンゼー・アンド・カンパニーなどのコンサルティングファームも協働している。
KKR単体で取り組むのではなく、あえてNPOを立ち上げ、ほかのPEや金融機関などと連携するのはなぜなのか。平野はその理由を「オーナーシップ・プログラムがほかのファンドの投資先に広がれば、その恩恵を受ける従業員の数も増えていく」からだと説明する。27年末までに、パートナーに名を連ねるPEのうち3社以上が投資先企業に対してプログラムを導入することを短期的なKPIに掲げ、今後3年でプログラム導入企業を10社増やすことを目指すという。
トラックドライバーに100万ドル
オーナーシップ・ワークスが手がけるのは、イグジット時のリターンを従業員に分配する仕組みづくりのサポートだけではない。何より重視しているのが、全従業員が企業価値の向上やMVV(ミッション・ビジョン・バリュー)の実現に主体的にかかわる「オーナーシップ文化」の醸成だ。
経営者が経営戦略や業績を従業員にわかりやすく伝える場を設定し、従業員が経営の意思決定にかかわることのできる機会を用意し、事業計画の進捗を継続的に共有する。「従業員一人ひとりに、自分の仕事が会社の成長のどの部分を受けもっているのか、利益が増えると株式の価値がどう高まるのかなどをしっかり理解してもらう。経済的なベネフィットを与えるだけではなく、『オーナーになる』ことを通じて会社の経営や業績に関心をもってもらう。これが、従業員持株会やストックオプションとの大きな違いだ」(平野)。
この手法は、株主であるPEにも経済的合理性がある。PEは投資先企業の中長期的な成長に最もコミットしている存在だ。企業価値が思うように上がらなければ、大きな損失をこうむることになりかねない。従業員のエンゲージメントが高まれば生産性が上がり、企業価値が向上し、イグジット時のリターンも増える──。これこそが、経営者、株主、従業員が同じ船に乗ることの真意だ。
実際にオーナーシップ・プログラムを導入し、イグジットを果たした企業ではどんな成果が出たのだろうか。米国企業2社の事例を見てみよう。
ガレージドアの製造を手がけるC.H.I.オーバーヘッドドアーズでは、全従業員およそ800人が「オーナー」となった。22年にKKRが同社を北米最大の鉄鋼メーカーNucor(ニューコア)に売却した際、KKRからC.H.I.に分配された株式売却益は総額約3億6000万ドル(約569億円)で、うち70%以上が経営幹部層より下の役職の従業員の手にわたった。勤続1年6カ月以上の従業員で、受け取ったインセンティブ報酬の額が5万ドル(約790万円)を下回った者は一人もおらず、なかには100万ドル(約1億5818万円)以上受け取ったトラックドライバーもいたという。


