サイエンス

2026.09.15 18:00

食料無限の「ネズミのユートピア」が崩壊した理由、人間社会との類似点

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1968年のこと。米国の動物行動学者ジョン・B・カルフーンは、米国国立精神衛生研究所(NIMH)の実験施設内に設けられた巨大な金属製の檻に、雌雄のつがい4組からなる8匹のマウス(ハツカネズミ)を放った。

檻の中は「パラダイス」になるよう設計されていた。食料や水は決して尽きることがなく、外敵もおらず、天気の変化や、他の種との競争もない。また、檻の中には数百の巣箱が設けられ、数千匹のネズミが暮らせる十分な空間が確保されていた。

檻に放たれたマウスたちは繁殖に励んだ。だがその後、檻の物理的スペースがいっぱいになるはるか手前の、個体数が2200匹に達したあたりで、コロニーはピークに達した。その後は拡大が止まり、やがて絶滅に向かったのだ。

カルフーンはこの檻を「ユニバース25」と呼んだ。これは、彼がそれ以前にげっ歯類のすむ「ユニバース」を24棟設けていたからだ。カルフーンは1973年、このユニバース25で起きた出来事の一部始終を論文にまとめ、『Proceedings of the Royal Society of Medicine』で発表した。

ネズミのユートピアのほころびは、なわばり問題から

カルフーンは、1940年代から行われていた一連の実験を検証するなかで、げっ歯類の動物は、十分な広さのスペースを与えられたとしても、えさ場の周囲に群れる性質を持つことに気づいた。そのため、ガラガラの檻の中で、ネズミたちが局所的に著しく密集する現象が発生する。

こうした過密状態が発生するなかで、正常だった社会生活は、特徴的な道筋をたどって崩壊へと向かう。カルフーンは、1962年に一般向け科学雑誌『Scientific American』に寄稿したレポートで、この現象を「ビヘイビアラル・シンク(Behavioral sink:行動の沈下)」と名付けた。 

通常であれば、げっ歯類のオスは、なわばりを持ってそれを守る習性を持ち、これによって社会的に組織化される。しかしユニバース25では、時の経過と共にオスの個体数が増え、防御できるなわばりを維持できないオスが増えていった。支配的なオスも、常になわばりを脅かされる状況に疲弊し、巣があるエリアをしっかりと守ることをやめた。なわばりを持たないすべての個体は、行き場を失っていた。この実験環境には、逃げ場となる「外部」がなかったからだ。

ネズミのユートピアに生まれた「身分制度」

こうしたなかで、ネズミたちの集団には、繰り返される社会的行動パターンが生まれた。カルフーンは、自身が創り上げたげっ歯類の「ユニバース」に広く発生したこれらの類型を、以下のように詳述している。これは、この実験記録のなかでも最も印象的な部分だが、最も読み飛ばされることが多い箇所でもある。

1. なわばり死守派
少数のオス(しかもその数は減少していった)は、居住スペースとメスの防衛に集中したが、野生で暮らすオスであればとても耐えられないような攻撃を受けた。その結果、一部のオスは自らの地位を完全に放棄した。

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翻訳=長谷睦/ガリレオ

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