中国に対する脅威の認識もかなり違う。パラオは、小笠原諸島からグアムを経てパプアニューギニアに向けて伸びる第2列島線上に位置する。米軍も重視しており、パラオにあるペリリュー島の飛行場の再整備に取り組んでいる。当然、パラオのウィップス大統領も中国を警戒している。黒崎氏によれば、パラオは今年のPIFの主要議題として安全保障を取り上げたい意向を示したが、中国から遠く、安全保障環境が異なる国々から異論が出たという。
それでも、黒崎氏は「一時のような中国による太平洋島嶼国への影響力拡大の動きは、やや停滞している。むしろ、最近は豪州が島嶼国への影響力を強めてきている」と語る。豪州メディアによれば、ソロモン諸島をめぐっては、豪州との新たな包括条約交渉が大詰めを迎え、9月上旬には原則合意に達したと報じられた。豪州はバヌアツとも包括的な経済・安全保障協定を進めている。太平洋島嶼国の盟主を自認するフィジーでも、中国寄りとされたバイニマラマ政権に代わったランブカ政権が豪州に接近している。フィジーと豪州は7月、「平和の海同盟」と呼ばれる新たな防衛条約に署名した。
黒崎氏は「元々、太平洋島嶼国の人々は、自分たちを格下に見る豪州に嫌悪感を持っていた。ところが、2022年に発足したアルバニージー政権が太平洋島嶼国を重視する路線に切り替えたため、一気に関係が深まった」と語る。
本来、太平洋は「ANZUS(豪州、ニュージーランド、米国)の湖」とも呼ばれ、ミクロネシア圏を米国、メラネシア圏を豪州、ポリネシア圏をニュージーランドがそれぞれ担当し、域内諸国に協力してきたという歴史を持つ。近年、中国が第2次世界大戦当時に太平洋に影響力を伸ばした日本のような動きをしているとされ、警戒が強まっていた。
黒崎氏は「今年のPIF首脳会議も、豪州がさまざまな議題や利害関係を調整していたおかげで、うまく議事が進んだと言える」と語る。ただ、太平洋島嶼国が懸念する気候変動への対応を後退させ、USAID(米国国際開発庁)の事業停止・縮小を進めたトランプ政権下の米国の存在感はほとんどなかったという。「ANZUSの湖」は、米国の関与が薄れることで「ANZの湖」になりかねない危うさもはらんでいるようだ。


