展覧会、芸術祭、フェア、オークションなど多彩な話題が飛び交うアートの世界。この連載では、毎月「数字」を切り口に、ビジネスにも効くアートな話をお届けしていく。前橋で初開催を迎える国際芸術祭は、“世界一のフーディー”と何を展開するのか?
芸術的な一皿を生み出す料理人は、しばしばアーティストと称される。それでも、世界に数多ある芸術祭で主役になることはほとんどない。その境界に真正面から挑むのが、第一回 前橋国際芸術祭 2026だ。128カ国・地域以上を食べ歩く世界一のフーディー、浜田岳文の監修のもと、「Food as Art?」と題して、食は現代美術の領域に入りうるかを問う。
「長年、料理人が画家や彫刻家といったほかのアーティストと同じ文脈で語られないことに憤りを感じていたんです」と浜田。象徴的なのは、分子料理を確立した「エル・ブジ」のフェラン・アドリアが、2007年のドクメンタに招待されたぐらいだという。昨年末、本芸術祭の実行委員長を務める田中 仁との会食で、そんな思いを熱く語ったことでプログラム実施が決まった。
浜田は独自に、食を大きく3つに分類している。まず、栄養補給としての食。そして、生理的・直感的に感じる「うまい」食。もうひとつが、頭で背景のストーリーまで味わう「おいしい」食。その「うまい」と「おいしい」の関係は、風景画を美しいと思う感覚と、複雑なインスタレーションからメッセージを受け取る感覚にも似ている。
「アートが宗教画から印象派、そして、社会に一石を投じる現代アートへと移行してきたように、食もそういう流れにきているのかもしれませんね」と田中。現代アートも料理も、社会や倫理、環境を考えさせるメディアに変わりつつある。それが今回の着想にあると浜田は言う。
プログラムのひとつの目玉は、「世界のベストレストラン」で常に上位に入るコペンハーゲンの劇場型レストラン「アルケミスト」のラスムス・ムンクによる基調講演だ。
目玉や舌を模した料理やセンセーショナルな映像を用い、社会問題を五感に訴えるコースを提供する彼は、「間違いなく食をコンテンポラリーアートとして実践する第一人者」と浜田。オファーを快諾し、料理提供まで視野に入れるほど前向きだという。彼が何を語るのか。一流料理人の言葉や哲学、さらには地元での交流が「前橋の料理人や飲食店の刺激になれば」と田中は期待する。
一方、大阪「ラ・シーム」のシェフ、高田裕介は展示作家として参加する。「メッセージのある料理も、食の世界ではなく、アート界隈でどう評価されるか。それを問うには美術館に展示されることに意味がある」と浜田は強調する。また、BGM的な「聞く」音楽でなく、主体的に「聴く」音楽を主役にする実験的なイベントも予定している。取材した7月、「場所もスタッフも、柔軟に用意します」と、田中は心待ちにする様子だ。
会期中は有名シェフに限らず、群馬の郷土料理や地域に暮らす外国人の多国籍料理も取り上げる。「“おいしい”だけに閉じることなく、幅広く、どこからどこまでが現代アートとしてとらえられるかも来場者に委ねたい」と浜田。この試みは芸術祭の後、アートと食、それぞれの領域にどんな余韻を残すだろうか。
田中 仁◎第一回 前橋国際芸術祭2026実行委員長 兼 総合プロデューサー。ジンズホールディングス代表取締役会長CEO。14年に群馬県の地域活性化支援のため「田中仁財団」を設立。建築やアートを軸に、地方都市・前橋のまちづくりに尽力する。
浜田岳文◎1974年生まれ。これまでに世界128カ国・地域のレストランを訪問。海外レストランサイトのレビュアーランキングで8年連続1位を獲得し、世界的美食家として知られる。主な著書に『美食の教養 世界一の美食家が知っていること』(ダイヤモンド社)。



