経営・戦略

2026.09.18 08:15

伝説のバンカー・大櫃が語る、伸びるリーダーの条件(第2回) 弁護士ドットコム・元榮の「逆張り」はなぜ外れないのか

みずほ銀行で常務執行役員を務め、長年にわたりスタートアップ・成長企業支援に携わった、現・ミダスキャピタル専務取締役パートナーの大櫃直人。約4000社を訪ね、メルカリやマネーフォワード、タイミーなど500社を超える企業への融資を手がけてきた。財務の数字だけでなく、経営者の考え方や人柄まで見つめ、まだ数字には表れていない成長の可能性を見極めてきた人物だ。

advertisement

その大櫃が自ら出会った、日本を代表する成長企業とその経営者を読み解く本連載。第2回は、法律相談ポータルサイト「弁護士ドットコム」や契約マネジメントプラットフォーム「クラウドサイン」を手がける弁護士ドットコムと、創業者で代表取締役社長の元榮太一郎を取り上げる。生成AIが法律実務まで変え始めたいま、大櫃は元榮の何を見て、次の成長を期待しているのか。



弁護士資格の「逃げ道がある人」に見えた

弁護士の資格があれば十分に仕事をしていけます。実際、大手法律事務所でキャリアを積む道もあったはずです。それなのに元榮太一郎さんは、茨の道ともいえるスタートアップの世界に飛び込みました。しかも目指していたのは、「弁護士で初めての上場企業をつくる」という志です。この"逆張り"は、なぜ外れなかったのか。私は、その理由をずっと知りたいと思ってきました。

advertisement

元榮さんが05年に創業した弁護士ドットコムは、14年に東証マザーズ(当時)へ上場した会社です。法律相談ポータルサイト「弁護士ドットコム」を祖業とし、15年には契約マネジメントプラットフォーム「クラウドサイン」を開始。現在は生成AIと独自保有の法律データを組み合わせた統合型・法務AIエージェント「LegalBrain エージェント」も展開し、25年12月には東証プライム市場へ移行しました。

上場前の14年3月期に2億9100万円だった売上高は、26年3月期には162億8800万円まで拡大し、営業利益は22億400万円に到達。27年3月期は、売上高205億円、営業利益30億円を見込んでいます。

私が元榮さんと初めてお会いしたのは、みずほ銀行の渋谷中央支店で支店長を務めていた13年ごろです。弁護士ドットコムが上場する前のことです。当時、私は多くのスタートアップ経営者に会っていましたが、元榮さんにはほかの起業家とは少し違う印象を持ちました。

しかも元榮さんは、そうした大きな志を抱きながらも、自分の会社の可能性を必要以上に大きく語る人ではありません。とても落ち着いていて、事業についても淡々と説明する。正直に言えば、最初の私は「弁護士という逃げ道があるから、ここまで泰然としていられるのではないか」と見ていたところもありました。

ところが、付き合いが深くなるにつれて、それがまったく違うことに気づきます。

元榮さんが弁護士を志した原点は、大学時代に起こした車の物損事故でした。相手側の保険会社から修理代を全額負担するよう求められ、母親の勧めで弁護士に相談すると、過失割合は7対3だと教えられた。それを相手に伝えると、話が解決した。法律を知らないだけで不利益を受ける人がいる。その経験から弁護士を志したといいます。

司法試験の勉強でも、彼は徹底していました。自分に厳しいルールを課し、ほとんど席を立たずに勉強を続ける。表面には出さないだけで、目標を決めたときの執着心はむしろ人一倍強い。私が最初に感じた落ち着きは、熱量がないからではなかったのです。

次ページ > 8期連続赤字を乗り越えられた理由

advertisement

ForbesBrandVoice

人気記事