多くの組織は、人材戦略を次のような定番の問いから始める。「どうすればより優れた人材を採用できるか。どう育成するか。どう定着させるか」。これらは重要な問いではあるが、AI時代においては、もはや最初に問うべき事柄ではない。
仕事の性質は変化しており、役割の境界線も、人間と機械のどちらがタスクを担うべきかの境界線も曖昧になりつつある。したがって組織はまず、将来どのような役割が価値を生み出すのか、その役割にどのようなスキルが必要か、そしてそれを担える適切な人材が確保できるかを検討しなければならない。
人材戦略の3つの柱
私はこの課題を、相互に関連する3つの柱、すなわち「役割」「スキル」「人材」を通じて考えることが有益だと感じている。
・役割(Roles):仕事においてどのように価値が創造されるかを定義するもの。組織は自らのオペレーティングモデルがどう進化していくのか、つまりどの役割が拡大し、どれが縮小し、責任・意思決定権限・組織構造をどう適応させる必要があるのかを明確にしなければならない。
・スキル(Skills):パフォーマンスを支える技術的な知識や行動特性である。組織は将来的に重要となるスキルを特定し、日々の価値創出を担う恒常的なスキルとの違いを見極める必要がある。
・人材(Talent):その役割を実際に遂行できるのが誰なのかを決定する。組織は特定したスキルを枠組みとして活用し、自社の人材パイプラインの質を把握することで、将来のリーダーがどこから生まれるかを見極め、リスクに対応し、次世代リーダーを育成できる。
スキルは役割と人材を結び付ける「結合組織」である。仕事を能力へと翻訳し、その能力を組織成果へとつなげる役割を果たすからだ。この3つの柱が整合していれば、採用・育成・要員計画において、より優れた意思決定が可能となる。もし切り離されていれば、単なる見栄えの良いスキルカタログにすぎなくなる。
人材戦略に向けた3つのステップ
AIは真の破壊者であり、むしろ「変化こそが恒常」となる。機敏な組織は、押し寄せる変化の波に揺さぶられながらも、バランスを崩さずに安定を保つ方法を心得ていなければならない。
1. 役割を再考する
組織の形は人材戦略の産物である。ピラミッドの底辺を削るという市場のトレンドに追随することは、業務遂行とマネジャー育成の両面で組織にリスクをもたらす。
今日の役割は、細かなタスクを絶えず見直さずとも組織変化に対応できるよう、より広く定義されるべきである。専門特化型の狭い役割は重要ではあるものの、従業員を陳腐化への道に追いやらない形で慎重に設計しなければならない。
AIへの移行コストは早期に織り込む必要がある。自動化可能な手作業を特定するのは容易だが、トークン使用にはコストが発生する。事前にその分析を行わなければ、組織は学習曲線を上る過程で大きな代償を払うことになりかねない。
2. スキルを高める
スキルは基礎レベルで定義されるべきだ。優れたエンジニアやUXデザイナーを生むのは、ClaudeやFigmaへの習熟ではない。システム思考を通じて点と点をつなぎ、適切な問いを立て、実験し、スケールさせる能力である。技術的スキルと行動的スキルの双方をこのメタレベルで定義することが、持続可能性を高め、パフォーマンスを引き出す。
また、スキルは役割ごとに習熟度レベルを伴って定義される必要がある。単にAIモデリングを目的にタグ付けしやすくされたスキルは、アルゴリズム上の驚くべき成果を生むかもしれないが、本来果たすべき目的を達成できない。
スキルを正確に評価できるツールはごく限られており、マネジャーの判断のみに頼ることはハロー効果、ホーン効果、直近効果などのバイアスを招く。より効果的なのは、キャリブレーション(すり合わせ)の手法を用いることだ。これは、評価されるというプレッシャーや報酬への影響を心配することなく、マネジャー同士が時間をかけてスキル評価をすり合わせるものである。組織がこの規律に時間を投じることで、スキル評価の筋力が鍛えられる。
最後に、スキルは育成されなければならない。個人レベルにおいては、フィードバックを受けることで、具体的な領域に絞って自らの成長を形づくることができる。組織レベルにおいては、スキルを研修・育成プログラムの最適化に活用できる。
3. 人材のチェスを指す
組織に適切な人材が確保されているかを確かめるには、経営レベルで人材プールを見直す必要がある。ナインボックス方式の人材レビューを導入している組織であっても、各人をどのボックスに割り当てるかに過度に時間を割いているようでは不十分である。対話の焦点は、組織のアジリティを高め、ハイポテンシャル人材のリーダーシップを育てる、社内でのストレッチアサインメントへと移行しなければならない。
強いパフォーマンスを発揮する組織は、単に年次の人材レビューを行うだけではない。彼らは「人材のチェス」を指す。すなわち、意図的に人材を役割間で動かし、幅広い能力と次世代リーダーを育成していく。前述で特定されたスキルは、コーチングや、ギャップを補完する社内モビリティを通じて、育成の重要な要素となる必要がある。
役割、スキル、人材は要員計画における最重要の柱だ。勝ちにいく組織を目指すのであれば、真に重要な仕事を定義し、パフォーマンスの指標を定め、それを実現できる人材を確実に確保しなければならない。



