変形ロボット設計の「T-Rex」 豊富な経験で活躍[Part2/2]

([Part1]はこちら)

重要なのは技術より創造性

T-Rexが設計にCADを多用するのは、制作における一貫性と利便性のためだ。昔は紙の上に手書きで設計図を描いていたが、複雑な構造の玩具を二次元の世界で表現するのは非常に難しい。さらに、一つのプロジェクトに複数の人物が関われば、スキルのバラつきによって作業工程に混乱が生じることもある。そこで、同社は2000年前後からCADを採用。当時はまだかなり珍しいことだったが、将来はそれが一般的になると予測した。

実は、米国のメーカーはそれよりもずっと以前からCADを使い始めていた。だが、全般的なスキルは当時、まだ相当に低かった。それは、それらのメーカーが玩具を好きな人や芸術的な知識と技能を持った人物ではなく、エンジニアたちにCADを使った設計を担当させていたためだとみられる。

エンジニアは、純粋に機能性を追求し、論理的であろうとする。前野取締役は、同社の場合は代表取締役がロボット玩具に詳しく、それがどういうものであるべきかを深く理解していたことが大きかったと話す。

例えば、人材を採用する際にも、同社はCADに関する経験やスキルを深く問わない。それよりも、なぜ玩具やロボットが「クール」でなくてはならないのか、使って楽しいものでなくてはならないかを理解しているかどうかに関心があるためだという。どのようなロボット玩具がより受け入れられやすいかを理解することよりも、CADを使うスキルの方が、ずっと簡単に学ぶことができるからだ。

つまり、同社の仕事の中で実際に芸術性が求められる場面は多くはないものの、それでも同社にとっては、芸術的な洞察力の方が重要だということだ。多くの業種で、採用においては候補者の創造性よりも技術的な側面が重視される傾向にある中、企業の採用基準としては、新鮮な考え方だといえる。

将来に向けて広がる視野

T-Rexの今後について尋ねると、前野取締役は同社が現在、海外進出に目を向けていることを明らかにした。

コミック「アーマローダーズ」に登場する「ベレロフォン」の製造に関わったことで、欧米と日本でいかに消費者の需要や製品完成までのプロセスが異なっているかを知ることができた。その上で、同社の協力を求める海外企業があれば、ぜひ協力したいと考えているのだという。

前野取締役は、個人的にはビデオゲーム「バットマン」の「アーカム」シリーズのキャラクターの制作に関心があるのだと語っている。

同社は日本でのロボット玩具づくりのエキスパートだ。そのためロボットをつくることだけに専念していると思われがちがだが、実際には同社の持つ一連のスキルは、別の種類の製品にも転用が可能なものだ。これまでにも、玩具の自動車やトラックの設計を数多く手掛けている。

取材を終えて──

T-Rexのスタジオは、これまでに設計を手掛けた玩具であふれ返っている。3人の取締役のほか従業員わずか2人の小さな会社だが、彼らがその制作に関わっていたとは、と驚くようなものばかりだ。

彼らは明らかに、情熱を持って仕事に取り組んでいる。クリエイティブな知識にあふれており、長くこの仕事に携わってきた取締役たちが持つロボット設計についての幅広い知識が、現在の彼らの仕事に大きく貢献している。日本の玩具メーカー大手がこぞってT-Rexを指名し、協力を仰ぐのは驚くに値しない。それだけ、素晴らしい会社だ。

編集 = 木内涼子

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