人事部門は長年、対応力を基準に評価されてきた。しかし多くの同業者にとって、対応力はいつしか「後手の対応」へと変質し、生産性、顧客満足度、さらには職場文化にまでコストを及ぼしている。仕事にログインした瞬間に緊急対応に追われたい人はいない。まして、それが毎日続くなど論外である。最高人事責任者(CHRO)にとって真の優位性は、先を読む力にある。すなわち、労働力に関するリスクを早期に察知し、コストが膨らむ前に手を打ち、問題が高くつく前に組織がより良い意思決定を下せるよう支援する能力である。
先を読む力は、理解を行動へと変える。従業員と事業が次に何を必要とするかをリーダーが認識し、結果を変えられるだけ早い段階で対応することを可能にする。コスト圧力、従業員の疲弊、経営幹部からの高まる期待のバランスを取るCHROにとって、反応から予見への転換はリーダーシップ上の必須要件になりつつある。
先を読む力はリスク低減戦略である
組織が問題の表面化後に労働力のニーズへ対応すると、そのコストは医療費の増加、プログラム利用率の低下、管理職の負担増、避けられたはずの離職といった形で現れる。先を読む力は、この方程式を変える。人事リーダーがシグナルを早期に把握し、リスクが複合化する前に介入し、すでに整備されているプログラムやリソースをより有効に活用できるようにするのだ。
例えば、慢性的な残業や欠勤、エンゲージメントの低下は、バーンアウト(燃え尽き症候群)の初期兆候である可能性がある。従業員が退職するのを待つのではなく、業務量の調整や成長機会の提供といった的を絞ったサポートを提供することで、早い段階で介入できる。このような予防的なアプローチをとる組織では、離職率が最大50%低下する。
コスト管理戦略は、実施される変更の「理由」を従業員が理解しているときに最も効果を発揮する。報酬から保険料負担割合に至るまで、早期かつ明確なコミュニケーションは、期待値の管理に役立ち、従業員が質問したり意見を共有したりする時間を提供する。取締役会やCEOが、人事に対して事業のレジリエンスへより直接的に貢献することを期待するなか、先を読む力の価値は従業員体験の改善にとどまらない。組織がより高い安定性、より強い意思決定、そして回避可能な混乱の少なさをもって運営されることを可能にする。
CHROがCEOの期待に応えるための3つの方法
先を読む力の価値は、組織の備えと継続性の維持に表れる。データ、高度なアナリティクス、そして共感的な評価を活用することで、先読みによるインサイトはパフォーマンス指標を大きく左右することになる。
1. 焦点を「年一回」から「継続的」へとシフトする。 年一回の福利厚生の加入手続きや中間評価などの大きな節目だけでなく、年間を通じてトレンドを観察する。
2. プログラムではなく、瞬間(モーメント)をマッピングする。 早期のサポートが必要となるライフステージや仕事上の瞬間をマッピングし、それを自己評価の基準となる「先読みの柱」として定義する。有用な兆候としては、従業員フィードバック調査、業務量の推移、残業時間の推移、欠勤率などが挙げられる。
3. 傾向とフィードバックを追跡する。 私の組織では、従業員体験を全体レベルと個人レベルの双方でより深く理解するため、従業員に毎月パルスサーベイへの回答を依頼している。そうすることで、コーチング、支援、方向転換、より深い対話の機会を提供できる。フィードバックを集める他の方法としては、1対1面談の仕組みに個別のチェックインを組み込むことや、チーム全体の感情を把握するために「2語でのチェックイン」を求めることなどがある。
先を読む力はソフトスキルではない。ビジネス上の規律である。CHROにとって、このスキルを高めることによる優位性は、問題が表面化した後により速く反応することから生まれるのではない。リーダーがより早く、より確信を持って行動できるようにするシステム、シグナル、意思決定モデルを構築することから生まれる。長期にわたり成果を維持する組織とは、先を読む力を本能ではなく戦略として扱う組織である。



