臨床利用は未検証、研究成果と医療診断は別物
AlphaGenome Atlasが予測するのは、DNA変異が分子レベルで及ぼす可能性がある影響であり、病気を診断するものではない。AVIスコアが高くても、それだけで疾患の原因だと判断できるわけではない。グーグル・ディープマインドも、AlphaGenomeは臨床利用に向けた妥当性が検証されておらず、臨床用途として承認されていないと明記している。
ブリティッシュコロンビア大学のカール・デ・ブールも、AVIスコアには「明確な用途がある」としながら、「誤って解釈されやすい可能性も高い」と指摘している。
研究段階では成果が出始めている。ブロード研究所のチームは、従来の研究で見落とされていた希少疾患関連の変異を候補として特定し、実験で予測を検証した。エクセター大学のチームはUKバイオバンクのデータを使った研究で、非コードDNAにおける遺伝的変異と形質との関連を従来より22%多く検出した。
こうした成果は、なお研究段階にある。臨床で利用できる製品にするには数年単位の検証作業が残る。グーグルは、その先の臨床検証を他者に委ねている。
大量の予測データをGoogle Cloudの収益へつなげる
AlphaGenome Atlasは、巨大な計算基盤を持つクラウド事業者だからこそ実現できるAI事業の形を示している。こうした事業者なら、単独の研究機関では難しい規模の計算資源を投入し、膨大な研究対象を事前に計算できる。
研究者には計算済みの結果を広く使ってもらう。その成果を利用して商用製品をつくる企業にはクラウドを提供し、利用料を得る。研究成果を広く普及させながら、商用利用に必要な計算基盤から収益を得られる仕組みだ。
AI事業における価値の重心は、モデル自体から、モデルが生み出した結果を保存し、利用できる状態で提供する計算基盤へ移りつつある。AlphaGenome Atlasは、その動きを分かりやすく示している。
この仕組みの恩恵を受けるのは、グーグル親会社のアルファベットだ。ただ、当社が保有するクラウド企業はアルファベットだけではない。マイクロソフトとオラクルも保有しているのは、同じ構造が両社にも当てはまるからだ。
最先端AI研究所は、両社が提供する計算基盤を使ってモデルを学習し、そのモデルを利用者向けに提供する。研究成果が事業として成功するかどうかにかかわらず、研究所は計算基盤の利用料を支払う。
AlphaGenome Atlasでは、グーグル自身の研究成果がGoogle Cloudを利用する側に回る。Google Cloudがいわば「家主」、グーグル自身の研究成果が「借り手」となり、同じ事業構造を自社内でつくっている。
投資家が注目すべき、Google Cloudの料金体系と収益性
投資家にとって重要なのは、研究成果が製品へ変わる過程を支える計算基盤を持つ企業だ。AlphaGenome Atlasの商用提供がGoogle Cloudで始まった際には、その料金体系を見る必要がある。1ペタバイトに達する事前計算済みデータにどのような価格を設定するかによって、巨大なAIデータを保存・提供するクラウド事業をどこまで収益化できるかが見えてくる。
約90億通りのDNA変異についてまとめて答えを計算し、その結果を1社のクラウドに保存する。AIビジネスがうまく機能すると、こういう形になる。


