約90億通りを事前に解析、研究者ごとの反復計算を不要に
AlphaGenome Atlasは、研究者がこうした計算を変異ごとに繰り返す必要をなくした。ディープマインドが約90億通りの単一塩基変異についてAlphaGenomeをあらかじめ実行し、さらに1億通りを超える短いDNA配列の挿入・欠失についても予測結果を計算して保存した。
グーグル・ディープマインドでゲノム研究を率いるジガ・アブセクは、「このプロジェクトを考え始めた時点では、計算処理で実現するのは不可能に思えた」と振り返る。
Atlasでは、研究者が調べたい変異を指定すれば、すでに計算された結果を読み出せる。変異を調べるたびに研究者側でAlphaGenomeを実行する必要はない。従来は変異ごとに必要だった計算処理をグーグルが事前に済ませ、研究者は保存された結果を検索して利用できる仕組みに変えたのである。
非商用では無料公開、商用利用はGoogle Cloudへ
ディープマインドは、同様の仕組みをAlphaFoldですでに構築している。AlphaFold Databaseでは、AIが予測したタンパク質の立体構造を無料で公開し、基盤となるAlphaFoldは生命科学研究で広く利用されている。AlphaGenome Atlasも研究成果を広く提供する点は共通するが、商用利用の仕組みは異なる。
AlphaGenome Atlasのウェブ版は非商用利用なら無料で使える。AlphaGenome APIも研究用途で利用できる。「Google Antigravity」は、AIエージェントが複数工程の研究作業を進めるプラットフォームで、Atlasを利用する機能が「スキル」として組み込まれている。
基盤モデルであるAlphaGenome自体は、Google CloudでAIモデルを利用できる「Model Garden」を通じて商用利用できる。AlphaGenome AtlasについてもGoogle Cloudで商用提供する方針だが、提供開始日と価格は公表していない。
AIモデルだけでなく大量の計算結果そのものにも価値
AlphaGenome Atlasの事業モデルを理解するには、AIモデル本体と、モデルを使って大量に計算した結果を分けて考える必要がある。最先端AIモデルをゼロから学習させるには巨額の計算資源が必要だ。完成した高性能モデルから大量の出力を取得できれば、その結果自体も別のAI開発などに利用できる。
この点を示すのが、AI業界で問題になっている「蒸留」だ。米政府は、中国の6研究所が米国製の最先端AIモデルを対象に大規模な蒸留を行ったと指摘している。蒸留とは、高性能モデルが出した大量の回答を学習データとして使い、その能力を別のモデルへ移す手法だ。
この事例が示すように、AIではモデルそのものだけでなく、モデルが大量の計算によって生み出した出力にも価値がある。AlphaGenome Atlasでは、その規模が1ペタバイトに達する。膨大な予測データを作るための計算資源に加え、データを保存し、利用者へ提供するクラウド基盤にも事業価値が生まれる。
グーグルは研究用途ではAlphaGenome Atlasを広く利用できるようにしながら、商用利用ではアルファベット傘下のGoogle Cloudを提供基盤とする。研究成果そのものを囲い込むのではなく、大規模な計算とデータ提供に必要なクラウド基盤を収益化する形だ。
AlphaGenomeは、遺伝子の働きがどのように調節されるかを調べてきた数十年分の実験データを学習に使っている。AlphaGenome Atlasは、その蓄積をもとに、実験ではまだ測定されていない変異にまで予測対象を広げた。長年蓄積された実験データを基に、人手だけでは構築できない規模まで予測データを拡張した形だ。


